KADOKAWA Group

Facebook Twitter LINE はてブ Instagram Pinterest

じっと手を見る

じっと手を見る

じっと手を見る

作家
窪美澄
出版社
幻冬舎
発売日
2018-04-05
ISBN
9784344032750
amazonで購入する

「じっと手を見る」のおすすめレビュー

富士山の見える町で介護士として暮らす男女――生まれた町に縛られた人々のせつない恋愛小説

『じっと手を見る』(窪美澄/幻冬舎)

『ふがいない僕は空を見た』『晴天の迷いクジラ』などの作品で、現代人の抱える孤独を描いてきた窪美澄。彼女の小説に登場するキャラクターたちは、一般的な「幸福」の概念から外れて、痛みを抱えながら生きている。だからこそ、読者は幸福の形がひとつではないと気づかされ、キャラクターに感情移入せずにはいられないのだ。

 新作『じっと手を見る』(幻冬舎)は、文芸誌で連載されていた連作短編に加筆修正をほどこし単行本化した一冊である。ここでは、地方に暮らす男女の閉塞感がリアルに綴られていく。章ごとに視点人物が切り替わり、それぞれの生い立ちが語られていく中、共通しているのは「ここではないどこか」への強い憧れだ。10年近い時間を経て、登場人物の心境にどんな変化が訪れるのか、あるいは訪れないままなのかをしっかりと読み取ってほしい。

 舞台となるのは富士山の見える、地方のさびれた町。専門学校を卒業した日奈と海斗は、地元の介護施設に就職する。何もない場所で、単調ながらも厳しい仕事が続いていく。気晴らしになるのは新しくできたショッピングモールだけ…

2018/6/16

全文を読む

おすすめレビューをもっと見る

じっと手を見る / 感想・レビュー

powerd by 読書メーター

ミカママ

窪さんは、恋している女子の心のヒダから言葉を掬いとって、それを見事に文章化してしまう。恋愛小説という観点で言えば、わたし的にはダメンズしか出てこない。ラストはヌル過ぎると感じたし、納得もしていない。官能(ことにキス)シーンは勉強になったけれど。でも今作の焦点はそこではないのだな、きっと。住むところや仕事を選べる者と、そうでない者。ふたつを隔てるものは、ここでも主に経済力か。介護職の舞台裏にも恐れをなしてしまった。誰だってゆくゆくは老いるのにも関わらず、老い方は選べない。やりきれない思いで本を閉じた。

2021/02/21

starbro

窪美澄は、新作をコンスタントに読んでいる作家です。[地方×介護×性]の連作短編集。地味で暗い日常の闇・生活ですが、じっくり読ませます。富士の樹海のスピリチュアルな影響もあるのかも知れません。【読メエロ部】

2018/05/05

ウッディ

幼い頃に両親を亡くし、今は介護士として働く日奈は、唯一の肉親である祖父を亡くし、落ち込む自分を支えてくれた海斗を捨てられない。初めて好きになった宮澤、海斗に惹かれる畑中など恋愛を描いた連作集。タイトルから介護士としての仕事の辛さを描いた内容かと思ったが、日奈も海斗も仕事に対する悲愴感はなかった。むしろ愛する人への優しさが報われず希望が見えてこない苦しさばかりが印象に残った。富士山が見える街は、命を飲み込む樹海を抱える地域であり、タイトルがイメージさせる閉塞感の象徴のような気がした。

2019/03/17

Yunemo

表題の意味、読了して理解。どうしようもない、と一言で言い表せない胸の奥。自身も確かに持ってるこの感情。表面的に、他人事に、人を見るだけなら一般的にはどうしようもない人たちの物語。でも、自身の心の襞が、頷かせてしまうそれぞれの登場人物の心模様。人との繋がりって何なんでしょう。という問題提起もあって。さみしさの埋め合せ、抜け出せない世界からの手段として、自身を見失っての進むべき座標軸として、いつの間にか何のためにという気持ちが薄れほぼ惰性の生き方に。介護の世界、どこかで感情のスイッチを切らなければ、重い一言。

2018/06/03

風眠

読み終えて、本を閉じる。ひとりになりたい。今だけ、ひとりになりたい。今、心にあるこの気持ちをどんな言葉で表せばいいのか分からない。ただ、ひとりになりたい、そう思った。人はひとりで生まれ、ひとりで死んでいく。よく聞く言葉だけれど、始まりと終わりの間にある「生」も本当はひとりなのだ。自分の中にある感情を誰かと共有し、時に依存する事があっても、自分の人生の責任は、自分にしか負えないのだから。「ひとり」と「ひとり」が共に生きてゆく。繋がれたその手がいつか離れる時が来るとしても、今はただ、その手を見つめていたい。

2018/05/02

感想・レビューをもっと見る