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半暮刻

半暮刻

半暮刻

作家
月村了衛
出版社
双葉社
発売日
2023-10-18
ISBN
9784575246810
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「半暮刻」のおすすめレビュー

女性を騙して惚れさせ風俗に落とす会員制バー。半グレ、大手広告代理店の闇、日本の歪みと悪を描いた社会派小説

『半暮刻』(月村了衛/双葉社)

 月村了衛氏の『半暮刻』(双葉社)は完全なフィクションでありながら、そらおそろしいほど現実とシンクロした小説だ。特に、大手広告代理店の内実を書き連ねたパートのリアリティは、驚嘆すべきものがある。社員は労働基準法に違反する負担を強いられ、不眠不休での仕事は当たり前。女性社員は過度なハラスメントを受け、精神的に追い込まれていく。同社が仕切る新都市博を巡る数々の汚職は、いつぞやのニュースで見たような錯覚を起こさせるものだ。

 主人公はふたりの青年。児童養護施設で育った元不良の翔太は、地元の先輩の誘いで「カタラ」という会員制バーの従業員になる。ここは暴力団に所属せずに犯罪を行う集団、いわゆる半グレが仕切っている店。言葉巧みに女性を騙して惚れさせ、風俗に落として金を使わせるのが従業員の目的だ。

 翔太はこの店で海斗という大学生と出会う。ふたりは、タッグを組んでずば抜けた売り上げを記録。それを可能にしたのは、店が作成したマニュアルだった。書かれているのは洗脳や自己啓発に限りなく近い文言。〈意識を高める、自分を磨く、自分が変われば世界…

2023/10/18

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誰がこの毒から逃れられる? 絶望の現代社会とわずかな希望『半暮刻』月村了衛インタビュー

 ※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年11月号からの転載です。

 人は罪を犯す。誰もが犯罪者になる可能性を宿している。だが、同じ「犯罪」でも、追い詰められた結果だったケースもあれば、単なる遊び感覚でなされることもある。

取材・文=門賀美央子 写真=川口宗道

 月村了衛さんは新刊『半暮刻』で、軽い気持ちから罪を犯した若者二人を描いた。 「本作は、“半グレ”に取材したとあるドキュメンタリー番組がきっかけになって生まれました」  半グレとは、暴力団ではないものの、ヤクザ顔負けの犯罪行為をする組織集団のことだ。1991年に暴力団対策法が施行されて以降、黒社会と一般社会の狭間で暗躍するようになったという。現在の半グレは特殊詐欺グループやヤミ金融など明らかな違法行為のほか、闇バイトの斡旋や貧困ビジネスなどグレーゾーンの商売を手掛けては荒稼ぎしている。  そんな彼らに特徴的なのは「人を人とも思わぬ」心の持ちようかもしれない。カモられる人間は愚かさゆえの自己責任であり、うまく立ち回る自分たちはただ賢いだけ。なんら罪はない、と本気で信じていそうなのだ。 「私は、…

2023/10/18

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半暮刻 / 感想・レビュー

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starbro

月村 了衛は、新作をコンスタントに読んでいる作家です。 本書は、電2をモデルにしたような社会派ノワールでした。 利権の蜜には、政治家、企業、ヤクザ、半グレ等有象無象が集まってくるんでしょうね。二人の生き方には、これからがありそうなので、続編を希望します。 https://www.futabasha.co.jp/book/97845752468100000000

2023/11/24

hiace9000

生まれも育ちも異なる、翔太と海斗。二人の若者は半グレの経営する会員制バー「カタラ」の従業員として偶然出会い、特異な才覚を発揮して詐欺マニュアルに則って次々と女性を騙し嵌めていく。ほどなく二人の人生には決定的な岐路が訪れてー。カタギ・半グレ・ヤクザを単に白・灰・黒とせず、人間の中に潜む真の邪悪性とは何かを、令和の社会事象と巧みに絡め炙り出していく。読み手は自らの人間性の深淵を覗き込み、そこで戦慄するはずだ。社会派月村小説の中でも筆頭の傑作長編。最後の一文に現れる書名はあまりにも鮮烈に心に突き刺さってくる。

2024/01/04

hirokun

★4 月村了衛さんの作品は新刊を中心に読んでいるが、今回の作品は、ここ数年で起きた様々な事件をストーリーに織り込み、長編ではあるが大変リーダビリティの良い作品に仕上がっている。日本社会の顕在化しない闇の部分を表現すると共に、人の痛みを感じられないサイコパスのような性格を書き表わす中で、人の心に潜む邪悪な部分を表面化している。私の好きな社会派小説として十分に楽しませてもらった。ひとつ言わせてもらうと、いろんな視点から切り口を取り入れすぎており、少しテーマがボケてしまうように感じたのは、私だけだろうか?

2023/11/14

しんたろー

月村さんの新作はホストクラブでの事件が報道されることが多くなった昨今にタイムリーな内容…女性を騙して性風俗に沈めるマニュアルを「学び」と信じて実践する翔太&海斗の二人の物語は、実際の事件や会社を想起させるように描かれていて興味深い。海斗の思考は典型的な「昭和オジサン」にとって腹立たしい限りで、彼がトラブルに困るのが嬉しい程の気持ちになった。人間の邪悪性を問うテーマと日本社会の暗部に切り込むので決して明るくはないし、著者が得意な痛快エンタメ色はないが、我が身を振り返って考えさせられることが多い作品だった。

2024/01/20

まちゃ

現代日本の闇(反グレ、巨大イベントに絡む利権、ハラスメントなど)がてんこ盛り。重い内容にも関わらず、読む手が止まりませんでした。月村さんの社会派小説、読み応えがありました。新宿の会員制クラブ「カタラ」で出会った児童養護施設育ちの山科翔太と一流大学に通う辻井海斗。その後の二人の生き方から、人としての〈学び〉について考えさせられる一冊でした。

2024/01/21

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