はやみねかおる「完結することが大事。あと8年できっちり締めくくる」

文芸・カルチャー

公開日:2021/9/25

都会のトム&ソーヤ(1) (YA! ENTERTAINMENT)

著:
出版社:
講談社
発売日:

<3日連続はやみねかおるさんインタビュー第3弾!>

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 数字が人気を表わすように著作の累計発行部数は660万部を突破。児童文学の名手・はやみねかおるさんが、32年にわたり世に生み出してきた数々の作品に夢中になった今の30~40代を筆頭とする“はやみねファン”にとって衝撃的なお話が…。「小説を書くことから引退」という言葉がはやみねさんから語られることになるとは。その真相についてをうかがった。

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(取材・文=立花もも)

――あと8年で引退するご予定なんですか?

はやみねかおる(以下、はやみねさん):もともとはあと3年……60歳になったら引退しようと思っていたんですよ。ぼくが小学校の先生になったとき、定年退職すると思っていたのと同じ年。ところがぼくの少し上の世代から、定年は65歳になったもので、じゃあそれに倣おうと。

――その前に、すべての作品をひとつに集約する……というのは?

はやみねさん:これまでの作品の中にもけっこう、解き明かされないままの謎が残っていまして、その種明かしを済ませてしまいたいんですよね。たとえばいつか、5歳くらいの子どもが図書館に行ったとするでしょう。そこではやみねかおるの本をはじめて手にとり、興味をもってくれたとする。そのときにはもうぼくが死んでいたとしても、すべてがちゃんと完結していたら、それだけで思う存分楽しめるじゃないですか。だけど何かの事情で書き終えないまま引退したり、急に死んじゃったりすると、読者は「あれはどうなったんだろう……」とモヤモヤしてしまう。ぼく自身、小説でもマンガでも続きが読めないまま終わってしまった状態というのがいちばん、喉にトゲが刺さったような気分になりますから。

――そんな思いは読者にさせたくない、と。

はやみねさん:「ああ、おもしろかった!」と心の底から楽しんでもらうためには、完結する、ということが大事ですし、その方がだらだら書き続けるよりも、ぼく自身が幸せですからね。あと8年できっちり締めくくるつもりです。

――さみしいですけど、そんなはやみねさんの作品だから好き、というジレンマがありますね。それに……本当に終わりますか? あと8年で。

はやみねさん:ははっ(笑)。心配はごもっともだと思いますが、去年『令夢の世界はスリップする 赤い夢へようこそ 前奏曲』というシリーズ1作目を書いたことで、時系列の調整ができましたのでね。自分なりに矛盾点をつぶすこともできるめどが立ったので、楽しみにお待ちいただければと思います。

――でもそう言われてみると、『ディリュージョン社の提供でお送りします』は、『都会のトム&ソーヤ』で内人と創也がめざしているR・RPG(リアル・ロールプレイングゲーム)が具現化した世界のお話ですし、世界をスリップする力をもった令夢がいろんな作品をつなげていきそうな気配がありますね……。

はやみねさん:『奇譚ルーム』『夏休みルーム』というシリーズでは、Twitterを進化させたようなSNSを登場させているんですけど、今より少し先の未来を描いておくということが、世界を集約させることの仕掛けのひとつ、ではありますね。

――じゃあもしかして、はやみねさんがTwitterを始めたのも……!?

はやみねさん:あ、あれは、ブログの管理をしてくださっていた“燃える一介の書店人”こと伊勢古書堂の店長さんの負担を減らすためです(笑)。自分でなんとかやってみるわあ、と始めたはいいものの、未だにリツイートっていうのをどうやったらいいかわからなくて……。カタカナに弱いもので、フォローがどうやらいうのもよくわからない。必死でやり方を検索しているんですけど、とりあえずは毎日あったことをつぶやき、写真だけどうにかアップしています。

――ファンには、それだけで十分です(笑)。

はやみねさん:あ、そうですか(笑)。なら、よかった。まあとにかくね、5~6年前に、サイン会をしてるときかなんかにふと思いついた構想なんですけど、ようやく「令夢」シリーズを始められたことで現実化してきて、ほっとしています。『都会トム』でも〈人類は覚めない夢を見る〉というワードを登場させていますけど、ぼくにとっては覚めない夢というのが何より怖いものなんですよ。どんなに怖い夢でも、目覚めたら終わる。でも生きながらにして覚めないまま夢に浸り続けたら。死んでも覚めない夢にとらわれてしまったら。それはどんなにかおそろしいことだろう……というのに、キャラクターたちがみんなで立ち向かっていく。その結果、ぼくの書く小説の世界も集結していく、というふうにしたいんです。

――そういえば、覚めない夢については他作品のキャラクターもたびたび口にしていましたね。

はやみねさん:赤い夢、というのも言ってみれば、覚めない夢のひとつです。そこへぼく自身が読者を招き入れたわけですから、責任として、カタをつけないと。

――ちなみにふだんはどんな執筆生活を送っているんですか?

はやみねさん:わりと早起きなので、ごはん食べたら何を書くかだらだら考えて、書いてみて詰まったら「今日はここまでやな~」と近所を走りに出る。炎天下だろうが台風が来ていようが、毎日6キロくらい走ってます。

――すごい!

はやみねさん:それが息抜きなんですよ。で、走ってるあいだに文章を考えて、また書いて……農作業が忙しくなる時期は稲刈りの手伝いに行ったりもしますね。ちょうど今時分は、本当に草がよく伸びるんですよ。三日に一度くらい、草刈り機で4時間くらい刈っています。そんな感じで。思いついたように生活しているので、あんまり自己管理はできていませんね(笑)。

――先日、Twitter上で、作家さん方のプロットの作り方が話題になっていたのですが、はやみねさんはどんなふうに作るんですか? なんとなく、立てたところで全然ちがう方向にいつも向かわれるんだろうな、というのは察しているのですが……。

はやみねさん:そのとおりです(笑)。いま書いているのは『都会トム』の19巻なんですが、シリーズものはキャラクターありきで考えますね。内人と創也が今度は学校を舞台に何かをやらかすけれど、何をするんやろなあ、と考えていたら、内人が「ジュークボックスでカラオケしよう」みたいなことを言い出した。で、カラオケにまつわる話を書いているうちに、創也が妙なゲームを考えついて、それが学校中を巻き込む事件に発展する……みたいなことになりそうやな、というように想像しながら書いていきます。『怪盗クイーン』もそうですが、ほっといても彼らが何かをしでかしていくんですよね。

――『ぼくと未来屋の夏』や『僕と先輩のマジカル・ライフ』みたいな、単発ものの場合はどうなんでしょう?

はやみねさん:先に決めたテーマに沿ってキャラクターが動いていく感じですね。『ぼくと未来屋の夏』は、子どもが何より大好きな夏休みを舞台にしたらどんな事件が起きるだろう? というところから始まった。そしたらやっぱり最後の夏休み、6年生の男の子が主人公がええなあ、夏休みの最初に不思議な大人と出会うというんはどうやろう? って考えたら未来を予測できる猫柳さんっていう妙な男が浮かびあがってきた。そこから、2人が解決する事件を考えていくという流れですね。『僕と先輩のマジカル・ライフ』は、ぼくが大学生の頃はこんなんだったなあ、という雰囲気を描きたかったんですよ。大学っていうめちゃくちゃ自由な場所に対して、生真面目に決まり事を守り抜こうとする主人公だったらおもしろいかな、と生まれたのが井上快人ですね。あとは、『ぼくと未来屋の夏』同様、快人と幼なじみの春奈が遭遇する事件を考えれば、キャラクターはおのずとそれに沿って動いてくれるというわけです。

――事件が起きる工程や物語の流れはノートに書いたりするんですか?

はやみねさん:めんどくさいので、書きません(笑)。というか、最初はノートを1冊用意して書こうとするんですけどね。それよりもキーボードを打った方がラクなので、途中から原稿を書き始めてしまうんですよ。だからほとんどのノートは、半分も埋まっていない。逆にノートにびっしり書き込むときは、そうとう苦労しているとき。先日『奇譚ルーム』の続編となる『夏休みルーム』を出したんですが、これは珍しくノートを1冊半も使いましてね。現実には存在しないSNSで事件を起こす、というのがなかなか思いつかなくて、あれこれ書いてしまいました。

――その、ほとんどプロットの残されていない膨大な世界観が、あと8年でひとつに集約されると思うと、わくわくしますね……。なかでも、はやみねさんにとって特別な作品ってあるんでしょうか。

はやみねさん:それはやっぱり、デビュー作の『怪盗道化師(ピエロ)』ですね。あれがいちばん、書けてよかったなあ、と思っている作品です。当時、教え子だった子どもたちに、どうすればおもしろく読んでもらえるだろうと試行錯誤して、自分で挿絵も描いて、それこそぶあついノート3冊分くらいの本を、1年かけて自前で作ったんですよ。

――『怪盗道化師(ピエロ)』はやっぱり、はやみねさんの原点なんですね。怪盗道化師が掲げていたルールのひとつ……「それを盗むことによってみんなが笑顔になれるもの」しか盗まない、というのは、作品すべてに通底するテーマだと思います。

はやみねさん:そうですね。最初のお話に戻りますけど、ぼくはやっぱりいつまでも小学校の先生で、子どもたちをわくわくさせたい、楽しませたい、という気持ちが根本にあるんだと思います。

――はやみねさんの作品では相棒だと思っていた人との別れがしばしば描かれるなと思っていたんですが、そこに悲しみや寂しさだけでなく、ハッピーエンドへの新たな始まりのような気配がするのは、はやみねさんがいつまでも先生であり、みんなの卒業を見送ってくださっているからなのかな、とふと思いました。作品世界自体が、読者にとってひとつの教室なんだと考えると、8年後に終わりがくるのも当然ですよね。……さみしいですけど。

はやみねさん:教室にはいろんな奴がいて、何があっても最低1年間は一緒に過ごさなきゃいけない。でもいずれその場所から卒業することになったとしても、ともに過ごした時間が消えるわけじゃないですから。最後まで、一緒に赤い夢で遊ぶことができたら、ぼくにとってこれ以上嬉しいことはありません。

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