「芸人が丸ごと描かれていて、私の日記かと思った」――一穂ミチ『パラソルでパラシュート』をお笑いコンビ・蛙亭はこう読んだ! 《インタビュー》

文芸・カルチャー

公開日:2022/3/27

「相方はムカつくけど、面白いから一緒にいる。やっぱり一番面白いから」(イワクラ)

蛙亭

――作中では、“相方”という関係性についても描かれています。亨と弓彦の間には、独特の空気感がありますよね。べったり仲がいいわけではなく、友達ともまた違う関係性です。おふたりは安全ピンのふたりの関係性を、どう捉えましたか?

中野:これくらいの距離感のコンビが、一番多いんじゃないかな。

イワクラ:でも、弓彦が亨たちの家にけっこう来るじゃないですか。これはすごいなって思いました。自分たちは、基本的にプライベートでは会わないんで。

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――イワクラさんはルームシェアをしていましたが、そこに中野さんが来ることはなかった?

イワクラ:ないです。焼肉とかしてて、誰かが「中野も呼ぶ?」って言い出した時は「マジでやめてくれ」って言います。プライベートでは絶対に会いたくないんで。

中野:行ったら行ったで、普通に過ごすと思うんですよ。

イワクラ:そう。

中野:でも、そこまでが恥ずかしいんでしょ? 僕はいつ来てくれても、いつ行ってもいいんですけど。まあ、照れてるんでしょうね。

イワクラ:だいぶ調子がいい時じゃないと呼べない。

中野:コンビを組んだばかりの頃は、よく家に行ってたんですけど。そのあと、イワクラが大阪でルームシェアを始めて。で、一緒に住んでるメンバーも同期で仲良かったんで、その頃はネタ合わせという口実でしょっちゅう遊びに行ってました。

イワクラ:美雨みたいな感じで入りびたってた。

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中野:リビングで寝落ちして、朝方帰って、昼か夕方にまた行って。毎日バイトと家とイワクラの家をぐるぐるしてましたね。

イワクラ:でも、もう10年じゃないですか。「こいつ、めっちゃいるな。きつー」と思って。でも、相方はムカつくけど結局は面白いから一緒にいる。やっぱり一番面白いから。

中野:弓彦が、亨からやりたくないネタを提案されても亨の意見を優先するっていうくだりがあるじゃないですか。あれはわかるなって思いましたね。「こっちのネタをやりたい」って言われて、自分は「違うな」と思っても、絶対そうは言わない。あと、亨が「弓彦が『おもんない』って言ったら、自分は芸人を辞める」って言いますよね。それもわかるなと思いました。

――相手の面白さに対する信頼感があるから、つながっている関係なんですね。

中野:そうかもしれないです。「このネタ、滑りそうだな」と思っても、「このネタじゃなくてこっちにしよう」とは絶対言わないんですよね。お客さんにウケるかどうかより、相方がやりたいネタをやることのほうが優先順位が上なんで。

――それは、相方の意見を否定して険悪になるのが嫌だということではなく、「こいつが言うんだったらこのネタをやろう」ということでしょうか。

中野:そうです。それがプロとして正しいかどうかはわからないけど、自分はそういうタイプ。口には出さないけど、そういう芸人はいっぱいいると思います。

――おふたりが、この本を勧めるとしたらどういう人でしょう。

中野:芸人なら絶対「わかる!」ってなりますけど、芸人じゃない人が読むとどう思うんだろう……。ファンタジーだと思うのかな。お笑いファンが読んだら、「いいな」ってうらやましく思いそうですよね。イケメンパラダイスじゃないですけど、芸人の世界に混ざっていろいろドラマがあって。読む人によって、見方がだいぶ変わってくると思いますね。

イワクラ:私、「悩みがある人はマジで芸人になったらいいのに」って、ずっと思ってるんです。「芸人になれば、マジで毎日笑えるのに」って。芸人は、つらいことも全部笑いに変えられる。ただ、終わりがないから、いつか自分で抜け出さなきゃいけないですけど。でも、思いつめていたり、なんかしんどかったりする人は、この本を読んで「こういう世界もあるんだよ」「こういうアホもいるんだよ」って知ってほしい。ここに書かれてることは、マジで現実なんで。

――最後に、蛙亭単独ライブのお話を。東京公演はすでに終了しましたが、4月10日(日)には大阪公演が控えています。来場チケットは売り切れていますが、オンライン配信で観ることができます。こちらの意気込みをお聞かせください。

イワクラ:自分たちの中ではやっぱり賞レースが大事だし、優勝して「面白い」って認められたい。そこに行くために、ネタを頑張っています。キングオブコントを見据えた単独なので、ぜひ観ていただきたいです。美雨ちゃんも安全ピンのネタを観て泣いてましたし、自分もそういう経験があるんですね。だから、自分たちもネタでお客さんのいろんな感情を引き出したいなって思います。

中野:この本で言う「おもろいやつ」のネタなんで、ぜひ観てほしいですね!

イワクラ:え、「俺はおもろい」ってこと?

中野:イワクラもよ。おもろいヤツとおもろいヤツのネタを、ぜひ観てほしいです!

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