涙なしでは読めない不朽の名作。多様性に戸惑い、生き方に迷えるすべての人にすすめたい1冊
『兎の眼』(灰谷健次郎/角川文庫)
歩み寄っても心を開いてくれない人や、努力しても分かり合えない人、住む世界が違う人と出会ったとき、距離をとったり無視したりすることは簡単だ。「多様性」への理解が求められる中でも、困難さを感じる相手を前に、億劫さを感じてしまうこともあるだろう。だがそんな姿勢は、この世界で暮らすことを放棄するのと、イコールなのではないだろうか――読むたびにそんな問いを私に投げかけ、「真摯に生きる」を怠けがちな私の肩を優しく叩いてくれるのが、『兎の眼』(灰谷健次郎/角川文庫)だ。
『兎の眼』は、児童文学作家の灰谷健次郎氏によって1974年に刊行された小説。舞台は、とある工業地帯の老朽化したゴミ処理所がある町の小学校だ。煙霧で空気は淀み、人家にも学校にも処理所から出る灰が降る。処理所の隣には、危険な仕事を負う臨時職員が暮らす長屋があり、小学校には、彼らの子どもも、役所の正職員や商店街で店を営む人、会社経営者の子どもも通う。つまり、子どもの生活格差の大きい小学校だ。
主人公は、大学を卒業して赴任したばかりの小谷芙美先生。医者の一人娘で泣き虫…