「泣いてしまった」の声が続出! 桜木紫乃×写真家の中川正子がタッグを組んだフォトストーリー『彼女たち』

文芸・カルチャー

公開日:2023/10/13

彼女たち
彼女たち』(桜木紫乃:著、中川正子:写真/KADOKAWA)

 なぜ私の人生って、こんなものなんだろう…。頑張りが必ず報われるわけではないこの世の中では、虚しくなり、心が堕ちる日がある。『彼女たち』(桜木紫乃:著、中川正子:写真/KADOKAWA)は、そんな日にこそ、そっと開いてほしい心のお守りだ。

 本作は直木賞を受賞した『ホテルローヤル』(集英社)など、心に染み入る物語を数多く紡いでいる桜木紫乃氏の短い物語と、美しい光を活かした写真を撮影する写真家・中川正子氏のタッグによる、フォトストーリー。

 桜木氏が描く、光を求めて生きる3人の女性たちの姿と彼女たちの目に映る景色や光を表現しているかのような、中川氏の写真の数々は、日々しんどさと向き合いながらも懸命に生きている人の心に響く。

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ままならない日常を送るあなたに響く“彼女たち“の人生

 本作には、3つの物語が収録されている。中でも筆者が特に泣いたのは、ひとりぼっちで生きてきたイチコという女性の過去や日常を愛猫の視点から描いた「ジョンとイチコ」だ。

 イチコは学校には行かず、大人になった。周りの人たちが何を話しているか、何が楽しいのか全く分からなかったからだ。

 ひとりぼっちを選んだイチコは必死に働き、遠い町で大学教員の仕事を得た。ジョンを拾ったのは、教員職を得て安堵した日。こうして、ひとりぼっちだったふたりは家族になった。

 ふたりの楽しみは、毎朝一緒にご飯を食べること。そんな生活が20年続いた頃、悲しい別れが。年老いたジョンはイチコに抱かれて、天国へ旅立ってしまったのだ。

彼女たち

 再びひとりになった、イチコ。だが、ジョンと出会ったことにより、イチコの心は以前のようなひとりぼっちではなくなった。「なつかしいものなんて、ひとつもないの」が口癖で、喜びも失敗も全てひとりで抱えてきた彼女の心は、ジョンと家族になったことで、どう変わったのか。その変化を知ると、胸に温かいものがこみ上げてくる。

 心に流れ込んでくるかのような桜木氏の文章と、ストーリーの状況にマッチし、どこか儚さを感じさせる中川氏の写真の相乗効果で、あなたの涙腺もきっと緩むはずだ。

 なお、本作では文や写真に「余白」が意識されているのもポイント。その余白や“描かれていないこと”は読者に自分の過去や日常、心境などを振り返るきっかけを授けてくれる。だからこそ、本作は悩める日々を送る女性たちの話としてではなく、“自分自身の物語”のように思えもするのだ。

「自分の物語」であるため、深く響くストーリーや刺さり方はライフスタイルの変化によっても変わってくる。例えば、母親という肩書きを背負い、自分の在り方が分からなくなってしまった時には、収録作「モネの一日」に泣かされるはずだ。

 この作品は、育児と仕事の両立に疲弊したモネという女性が自分の生き方を見つめ直すというもので、ひと足先に本書を読んだ読者から共感の声が続出している。

リビングで数ページめくってから、ここではないどこかで読みたいと思い、本を閉じました。テレビの音もしない、子どものおもちゃも転がっていない、どこか自分ひとりと向き合えるときに読みたいと思いました。(hana)

読み終わってから、自分もミルクコーヒーを淹れ、大きな深呼吸をして自分を一回手放して、また見つめ直しました。(eryy)

 また、イチコやモネといった“甘えられない彼女たち”にそっと寄り添うコーヒーショップのオーナー、ケイのストーリーには優しいエールが詰め込まれていて、その温かさが胸にくる。

彼女たち

 人は弱い生き物だ。けれど、心が傷ついた日を乗り越えられる強さも秘めている。そう感じさせる3つのストーリーに出会うと、“今”の受け止め方が変わることだろう。

仕事に、子育てに、容赦なくすぎていく日々。必要なのはこんな一冊なのだと思う。「だいじょうぶ」と声をかけてもらうだけで、こんなにも体温は戻ってゆくのだから。明日も笑っていられるように、何度もこの本を開く。(ゆずこ)

ページをめくるたびに「わたし」の本ができていく。呼吸が楽になっていく。ラストの写真を眺めていたら、明日はどんな日になるんだろう?と、明日へ臨む元気がわいてきた。(ももやん)

 明日を迎えるのが、少し楽しくなる――。本作との出会いで、そんなワクワクを得てほしい。

文=古川諭香

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