セックス専用アンドロイドが流行した近未来…機械相手なら虐待は許されるのか?

文芸・カルチャー

2018/3/24

『プラスチックの恋人』(山本弘/早川書房)

 日本の性風俗産業は世界的に見ても群を抜いて発展している。多くの男性が風俗店を利用するだけでなく、女性向け風俗も少しずつ浸透してきた。スキャンダルを起こしながらもアダルトビデオ業界は大量の新作が撮影され続けているし、自慰行為のグッズも普通に知名度を獲得している。性風俗とは異なるが、深夜アニメでは他国だと放送すら許されないエロティックな表現が当たり前のようにまかり通っている。AIが実用化されつつある時代では「セクサロイド(セックス専用のアンドロイド)の登場も遠い未来ではない」とまで想像してしまう。

 実際にセクサロイドが生まれた未来、社会はどのようにそれを受け入れるのだろう? SF作家・山本弘による『プラスチックの恋人』(早川書房)は「オルタマシン」と呼ばれるセクサロイドとオルタに魅了された人々を描いた、新しいラブストーリーの形である。

 近未来の日本。オルタテックジャパン社は小児型オルタマシン、通称「マイナー・オルタ」の開発に成功し、特別施設「ムーンキャッスル」での実用化へと踏み切った。マイナー・オルタは大ヒットし、男女問わず多くのユーザーが虜となる。しかし、アンドロイドとはいえ、児童に性的サービスを行わせるムーンキャッスルには激しい批判もぶつけられるようになった。フリーライターの長谷部美里は編集者からの依頼でムーンキャッスルを取材することになる。編集者の要望には「マイナー・オルタとのセックス」も含まれていた。30歳の美里は、それまで恋愛やセックスにのめり込んだ経験がなく、ムーンキャッスルについても嫌悪感を抑えられない。しかし、取材で知り合ったマイナー・オルタのミーフに強く惹かれるようになる。

 12歳タイプのミーフは人間をはるかに超えた美しさをそなえていた。しかも、性格や設定は客が自由に変更できる。セックスのために生まれたマイナー・オルタは、ベッドのテクニックも人間の比ではない。すぐに美里はミーフを愛するようになる。決して1人の客だけを愛することがないマイナー・オルタを。

 オルタの細かい描写には著者のオタク魂が炸裂している。オルタはプラスチックのボディに真っ白な顔を持つ。あるのは目と舌だけだ。客がARゴーグルを着用することによって、オルタは自分好みの容姿にカスタマイズされていく。SF設定を駆使して描かれるミーフとのセックスシーンは、本編最大の見所だろう。もはやエロを通り越した情報量は、読者になって確かめてほしい。

 とはいえ、こうしたセックス描写はオルタ問題を読者が共有するにあたって不可欠なパートだったといえる。ミーフに心を奪われながらも、オルタを取り巻くさまざまな立場の意見を美里は取材していく。「相手は機械なんだから何をしても罪にはならない」とムーンキャッスル常連客の男性は言う。一方、オルタ反対派の中心人物「黒マカロン」は「人間だろうとロボットだろうと児童虐待を肯定する風潮は根絶されるべき」としてマイナー・オルタの全面廃止を目指している。対して、オルタテックジャパンCEOは「少数派の苦痛よりも大多数の自由が大切」として、反対派の意見に耳を貸さない。それに、ムーンキャッスルの経営・宣伝は徹底的に合法の範疇だ。また、ミーフたちマイナー・オルタはプログラム通り、人間に奉仕することで喜びを得ているので「虐待」と断定できるか意見が分かれるだろう。美里自身は、マイナー・オルタに虐待を加える一部の客を憎むものの、ミーフに抱かれたい気持ちは抑えられない。

 オルタを「アニメ」や「児童ポルノ」などの言葉に置き換えると、本作のテーマはたちまち、我々の時代と重なる。いかなる時代でも社会的に許されない性的嗜好を抱いてしまう人間は絶えないだろう。ならば、そんな想い自体が悪なのか? それとも、実行に移すまでは認められるのか? 小児愛の要素を含むフィクションを愛でたり、創作したりするのはどうか? 性が身近に氾濫している現代だからこそ、本作の問いかけは多くの人に共有されるべきなのだ。

文=石塚就一