この歪んだ女に出会ってしまったら最後、最もおぞましいストーカーの物語『リハーサル』

文芸・カルチャー

2019/3/8

『リハーサル』(五十嵐貴久/幻冬舎)

 文章だけで、こんなにも恐怖と嫌悪感を表現できるんだ――。今から数年前に、五十嵐貴久氏の『リカ』(幻冬舎)を初めて読んだ時、そんな想いを抱いたことは今でも鮮明に覚えている。

 2001年に、第2回ホラーサスペンス大賞を受賞した『リカ』は平凡な会社員・本間が出会い系で知り合ったリカというひとりの女の狂気に追い詰められていく物語。常軌を逸した手段で本間にストーキング行為を行うリカの恐ろしさに読者はハラハラさせられ、その後刊行された『リターン』(幻冬舎)、『リバース』(幻冬舎)といった続編も大きな話題となった。

 そんなリカシリーズの最新作である『リハーサル』(幻冬舎)は、シリーズ史上最もおぞましい展開に…。本作は本間と出会う前のリカがどんな人生を歩んできたのかが分かる、興味深い1冊だ。

■リカという女の狂気が周りの人間たちを次々に追い詰める――

 物語の舞台は、東京・中野区にある花山病院。深刻な看護婦不足に悩んでいた副院長の大矢は貼り紙で看護婦を募集し、雨宮リカというひとりの女と出会う。リカは、病院関係者の間では有名な日本医師会の副会長の推薦状を持っていたこともあり、大矢は彼女の仮採用を決意。この決断により、彼は奈落の底へと堕ちていくことになる。

 ある日、大矢は高齢の男性患者の虫垂切除手術を執刀。手術は順調に終わったかのように思われたが、術後にリカから「鉗子が1本足りない」と医療ミスを指摘され、2人だけで隠ぺい工作を行ってしまう。

 すると、その日を境にリカの態度は急変。大矢は彼女からどす黒い好意を向けられるようになり、しつこく付きまとわれてしまう。

「リカ、お金なんかいらない。あなたが一緒にいてくれたら、それだけでいいの」
「リカと二人だけの秘密にしたいんでしょ?意外とロマンチックなんだね。そういうの、嫌いじゃない」

 どれほど拒絶しても剥き出しにした歪んだ愛情を押し付けてくるリカに、大矢は疲労困憊。そのため、試用期間が終わったらリカを不採用にし、病院から追い出そうと考えていた。

 しかし、そんな矢先、大矢の病院で働いていた婦長が階段から転落し、全身麻痺状態に。それを皮切りに、病院関係者の間で不可解な事件や事故が相次ぎ、職場の人間関係にも歪みが生じ始める。そして、おぞましい魔の手は大矢の美しい婚約者・真由美にも伸び、驚愕のラストに繋がっていく。一気読み必至な本作の本当の恐怖は、296ページから。背筋が凍る展開に、ページをめくる手が思わず汗ばんでしまう。

「知らない人は、どんな女なのかって聞くでしょ?でも言い出した人も、リカを知っている人も、みんな黙ってしまう。口をつぐんでしまう。話さなければよかった、そんな顔になるって…」

 作中のこの台詞には、リカという人物の恐さが巧みに表現されている。幽霊のように異様でおぞましい存在。それが、リカという女だ。そしてリカには妙なリアリティがある。この世には実在しないと分かっているのに、「いつか自分も彼女に出会ってしまうかもしれない…」と、思わずゾクっとさせられてしまうのだ。

 作中で次々と明らかになるリカの本性や残虐すぎる愛情に、あなたもきっと絶望するだろう。この女に出会ってしまったら最後、命を諦め、心を捨てる覚悟が必要だ。

文=古川諭香