【2020年本屋大賞ノミネート】「すべてが、伏線。」読者は挑発され、気持ちよく騙される!? 連続死体遺棄事件に挑む霊媒探偵と推理作家のどんでん返しミステリー

文芸・カルチャー

公開日:2020/2/29

『medium 霊媒探偵城塚翡翠』(相沢沙呼/講談社)

「すべてが、伏線。」

『medium 霊媒探偵城塚翡翠』(相沢沙呼/講談社)の初版帯には、黒い背景に金の箔押しでこう書かれている。タイトルに「探偵」と入るミステリー小説なのだから、伏線の回収があるのは当たり前だ。それでも、「すべてが」というくらいだから、さぞ読者を驚かせる仕掛けが用意されているのだろう。発売当初、期待を胸に書店のレジへと向かった。

 結果、本作は「このミステリーがすごい!」や「本格ミステリ・ベスト10」で第1位を獲得するほどの小説だった。さらに現在は「2020年本屋大賞」にもノミネートされており、ジャンルの枠を超えて評価されはじめている。そこで本稿では、改めて『medium』の魅力を語り、新たな読者を呼び込む一助としたい。

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 大雑把に分類すれば、本作は「特殊設定ミステリー」だ。通常のミステリー小説は、幽霊や妖怪、魔法などの非科学的な存在は登場しない。「何でもあり」になってしまうからだ。しかし、それらの存在に法則性を持たせ、合理的に謎を解いていく小説も存在する。本作のヒロイン兼探偵役の城塚翡翠(じょうづかひすい)は、霊媒師。死者の言葉を伝えることができる。なんとも現実離れしているが、それでもミステリーとして成立する。

 翡翠は霊媒を使い、犯人につながる重要な手がかりを得る。だが、そこに証拠能力はない。「霊媒でわかりました」と言ったところで、警察は誰も信じてくれない。そこにきて、語り部の推理作家・香月史郎(こうげつしろう)の出番というわけだ。彼は、翡翠が霊媒によって得た手がかりをもとに、論理の力でもって事件を解決していく。つまり、霊媒で先に答えを知り、後からそれを論理で証明する。通常のミステリーとは構造が逆なのだ。

 物語は、翡翠と香月の出会いの事件から始まり、最後は冒頭から匂わされている連続死体遺棄事件へとつながっていく。一向に証拠を見せない犯人に、警察の捜査は苦戦を強いられていた。忌まわしき殺人鬼を追い詰めるためには、やはり霊媒の力が必要である。香月は、翡翠とともに死体遺棄現場を訪れるが…。

 そこで明らかになる真相を、予期できた読者はいるのだろうか。疑り深いミステリーファンたちも、みな気持ちよく騙されたに違いない。「すべてが、伏線。」。本作は、はじめから読者をそう挑発していた。

文=中川凌