自身がレビー小体型認知症だと自覚していた祖父。それでも楓に幻視の話をしていた理由は?/名探偵のままでいて⑤

文芸・カルチャー

公開日:2023/2/3

第21回『このミステリーがすごい!』の大賞に輝き、早くもベストセラーに! 2023年話題のミステリ小説『名探偵のままでいて』をご紹介します。著者は人気ラジオ番組の構成作家としても活躍中の小西マサテル氏。かつて小学校の校長だった祖父は、レビー小体型認知症を患い、他人には見えないものが見える「幻視」の症状に悩まされていた。孫娘の楓(かえで)はそんな祖父の家を訪れ、ミステリをこよなく愛する祖父に、身の周りで起きた不可解な出来事を話して聞かせるように。忽然と消えた教師、幽霊騒動、密室殺人…謎を前にした祖父は、生き生きと知性を取り戻し、その物語を解き明かしていく――。古典ミステリ作品へのオマージュに満ちた、穏やかで優しいミステリ小説『名探偵のままでいて』より、第1章を全7回でお届けします。今回は第5回です。祖父は自分の病気を自覚し、まぼろしを見ていることもわかっていた。楓は「レビー小体型認知症」について、さらに詳しく調べることに。

名探偵のままでいて
『名探偵のままでいて』
(小西マサテル/宝島社)

 この二日間、DLBのことをさらに詳しく調べてみると、さまざまなことが分かった。

 同じDLB患者の人たちの間でも、レビー小体の現れる部位によって、記憶力や空間認知機能の減衰には大きな差異がみられるということ。

 幻視を常に怖がっている患者もいれば、あっさりと慣れてしまう患者もいるらしいこと。

 患者によってその症状には濃淡があり、まさに千差万別なのだという。

 ドーパ剤をはじめとする各種の薬剤のバランスが絶妙に働いたときには、まるで「霧が晴れたように」幻視が消え去ってしまうというケースも多いらしい。

 実際に体調次第では、まるで知性の衰えを感じさせないことも往々にしてあるという。

 なにより楓をいちばん驚かせたのは「――という事実だった。

 中には、毎朝目覚めるたびに現れる幻視を楽しみにしており、あとでそのスケッチを描くことを趣味にしているという極めてポジティブな人たちもいるという。

 まだDLBには科学的知見が出揃っておらず、それゆえに誤解も生じやすい。

 医療の現場においても、患者の強烈な幻視体験を表層的に捉えただけで「認知症の進行だ」と速断してしまう医師も決して少なくないというのだ。

 DLBの発症は、必ずしも知性の減衰を意味しない。

 楓はこの事実を知ったとき、あの妙な違和感が、まさに「霧が晴れたように」消え去ったような気がしたのだった。

 

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