SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第28回「リノベーション」

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更新日:2023/11/28

 私が住んでいるマンションは築四十五年である。良く言えば風情があるし、悪く言うと古い。一見して年期の入った建物だと思ってしまうのは、壁などに劣化が見られるということ以上に、ディテールがどうにもオールドスクールだからだろう。

 どうして入居すると決めたのかというと、別にそういった風情に惹かれたわけではなく、私が選んだその部屋だけはリノベーションが施されており、滅茶苦茶に綺麗だったからだ。しかも修繕された直後であり、私が初めての入居者になるという。いかにもな外観ではあるが、玄関を開けると別世界、しかも私の部屋だけ。脱いだらすごいんです的なロマンがある。即決だった。

 ただよく考えれば、よく考えなくてもなのだが、リノベーション物件は私の部屋だけではなかった。適当なことを言われたわけでも、嘘をつかれていたわけでもない。正確に言えば、私の部屋だけではなくなった、ということだ。要するに、私の部屋を皮切りに、色々な部屋のリノベーションが始まったのだ。私の部屋だけ、という特別感はほんの数ヶ月のうちに消滅した。

 ただそれだけならわざわざ記すほどのことでもないだろう。あア、うん、まア、そりゃそうだよねエ、と可愛げな舌打ちひとつで済んでしまうような話なのだ。しかしそれだけでは全然済まない事態に発展していく。

 築四十五年の建物が押し並べてそうだとは限らないと思うが、このマンションはなかなかに壁が薄かった。隣の部屋のテレビのボリュームが実際にどれほどのものなのかは知らないが、耳をすませば何の番組を観ているのかわかる程度には風通しが良い。そんなプライベートを共有できる素敵なマンションが、次々に部屋をリノベーションしていく。即ち、その度に改装工事が入るということだ。

 ちょっと想像してみてほしい。テレビを観て自分が笑ったタイミングと、壁の向こう側でおそらく同じ番組を観ていただろうご主人の笑ったタイミングが被った気まずさを体感できるマンションで行われる改装工事を。そして必然的に発生する騒音を。想像出来ましたか、はい、ありがとうございます、お時間頂戴いたしました。しかし残念でした。おおよそですが、その想像の二倍の音量です。

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しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催する。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中


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