SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第28回「リノベーション」

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更新日:2023/11/28

 ガンガンガンガン。

 ウィーーーーーーーーーン。

 ガンガン。

 ウィ、ウィーーーーーーーーーーーーーーーーーン。

 

 つい先日まではお隣さんと壁を隔てて笑い合えてたのに、改装工事が始まった途端に自分の部屋のテレビの音が全くもって聞こえない状態。エクスクラメーションマークとか多用すると文章だけでは表現しきれない人なんだって思われるかも、とか思っちゃってガンガンとかウィーンを格好付けて「。」で締めてるけど、まじで全然「!」。ていうかもう「!!!」だよね。

 大袈裟ではなく自分の家でやってんのかと思う程にうるさい。しかもそれが隣で工事してるからとかではないのだ、初めての工事は下の階だったし、その次は下の下だった。進行状況を各階の各部屋に知らせるために、親切にスピーカーでも付けてくれているのかってくらいに恐ろしく鮮明で立体的。ヤバめの解像度、超ハイファイ。音の響き方的にだが、おそらく建物自体に空洞が多いのだと思われる。だから一つの部屋での騒音が、全戸で鳴るのだ。アコースティックギターと一緒。そして厄介なことに、四十五年掛けていい具合にコンクリから水分が抜けて、マンション全体が更に鳴るようになってしまったのだと思う。これすなわち、ビンテージのアコースティックギターがめちゃ鳴るのと同じ原理だ。ガッテン。

 そして困ったことにこのマンションで暮らす大半はファミリーなのだ(というか一人暮らし私だけかも)。だから、作業の開始時間が出勤と登校に合わせた午前九時過ぎとかからになる。夜型の、しかも極端に夜型の人間である私には本当に優しくない。朝方にうとうとと眠りについて、ようやく本腰入れて熟睡かって時に、ガンガンウィーンが始まるので、絶対に起きちゃう。二度寝なんてもってのほか。どうにか寝ないとやばいと思って引っ張り出してきた耳栓でなんとか眠りにつくと、今度は目覚ましのアラームが聞こえなくて遅刻。死んでしまって、もしも天国に行けなかったとしたら、きっとこういうところに行かされるのだろう、と一時間待たせた友人に謝りながら思った。

 

 でも。なのでなんだかんだありつつ、「地獄かよ」とか日々ぼやきながらも私はこの家に住み続けている。まだここを出ない一番の理由は、引っ越しの手間と天秤に掛けてしまうから。探して、片して、割いて、は手間なんて簡単な言葉では言い表せない。そしてその実、あの騒音以外は案外理想的な物件であったりする。だから、ん、まア、まだいっか、になっているというのも要因の一つかもしれない。あとゲーム性もあるし。引っ越しのトラックがマンションに止まっている度にドキドキできる。入居なら問題なし、退去なら十中八九工事。ハイリスクノーリターン、男一本勝負。滾る。そんなところ。

 私が住んでいるマンションは築四十五年である。良く言えば活気があるし、悪く言うとまじうるさい。

SUPER BEAVER渋谷龍太

<第29回に続く>

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しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催する。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中


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