現代人の心は旧石器時代のまま!? 太りやすさのメカニズムを知る/科学的に正しいダイエット 最高の教科書

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公開日:2021/11/14

コロナ禍によるリモートワークが加速したこともあり、令和の新時代は“肥満”の原因があふれています。食べるのをやめられない、ガマンできない…。そんななか、ネットで見つけた「一瞬でやせる!」「~だけでやせる!」なんて記事や広告が目に留まりがちに…。

理学療法士にしてトレーナーである庵野拓将氏が執筆したこの『科学的に正しいダイエット 最高の教科書』には、科学的な知識を元にしたダイエット情報が満載です。スタンフォード大、ハーバード大、ケンブリッジ大、イェール大など、名だたる知の集積所にあるデータをまとめた、最新のダイエット知見を紹介しています。

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※本作品は庵野拓将著の『科学的に正しいダイエット 最高の教科書』から一部抜粋・編集しました

科学的に正しいダイエット 最高の教科書
『科学的に正しいダイエット 最高の教科書』(庵野拓将/KADOKAWA)

科学的に正しいダイエット 最高の教科書

ヒトは太りやすいように「デザイン」されている

 「今回こそ、ぜったいやせてみせる!」

 固く決意してダイエットをはじめたものの、甘いスイーツや、肉汁がたっぷりのハンバーガー、油で揚げたポテトを見ると、つい食べてしまう―。

 こういった場面に直面したとき、「どうして私は意志が弱いんだ」「どうして私は、食い意地が悪いんだ」と、嫌悪感に苛まれていないでしょうか。

 この悩みに対して現代の進化心理学は、つぎのように答えています。

 「それは、意志が弱いからではありません」
 「そもそも、ヒトの心や身体は太るようにデザインされているからです」

旧石器時代の食料事情が太りやすさの原因

 ヒトの心や身体は太るようにデザインされている―。この謎を解き明かすには、数百万年前の旧石器時代にさかのぼる必要があります。

 かつて狩猟採集で生活をしていたヒトは、得た肉や魚、樹の実や果物を食べていました。狩猟というのは食料の確保が難しく、獲物が見つかる日もあれば、何日も見つからない日もあります。とても不安定な生活(半飢餓)を強いられていたため、十分な栄養を摂取できないことが当たり前だったのです。

 そのため、ヒトはより安定した食料を得るため、農耕や牧畜を確立しました。

 ようやく飢餓を乗り越えることができたのですが、狩猟から農耕へ移行するまでに数百年という時を要しています。いったい彼らはどのようにして長い年月を食いつないでいたのでしょうか―。

 そのカギを握るのが「脂肪」です。ヒトはほかの霊長類と比べて、もっとも太っている生物です。ゴリラ、チンパンジーなどの体脂肪率は成体で約6%、子どもは約3%で生まれてきます。一方、ヒトの新生児は15%もあります。幼少期には25%まで増加し、成人になると男性は10%、女性は20%で落ち着きます。

 なぜ、これほど多くの脂肪を有しているのかというと、脳の大きさと関係があります。ヒトの脳はほかの霊長類に比べてとても大きく、安静時でのエネルギー消費量は、身体の代謝量の20〜30%(280〜420㎉相当)を占めているのです。

 また、ヒトは獲物を追いかけるために1日に平均15㎞を走ったり歩いたりしていました。しかもたいていは、空腹の状態です。さらに大変なのは男性よりも女性です。母親は乳児に母乳を与えなければならず、通常よりもさらに20〜30%のエネルギーが必要になります。

 旧石器時代において、脳に絶えずエネルギーを供給し、獲物を狩り、子育てをするためには、とにかく「余剰のエネルギー」をいかに確保するかが大切でした。その供給を可能にしたのが「脂肪」です。食料事情が厳しい半飢餓の時代を生き抜くためには、効率的に脂肪を蓄えてエネルギーに変換する仕組みが大切だったのです。

ヒトは脂肪のおかげで飢餓を乗り越えた

 食事を摂ることで栄養素のもつエネルギーを身体の中に取り込むことを「エネルギー摂取」、反対に運動などで身体の中に蓄えられたエネルギーを使うことを「エネルギー消費」といいます。エネルギー摂取とエネルギー消費のバランスは「エネルギーバランス」と呼ばれ、脂肪の増減は、基本的にこのバランスが崩れたときに生じます。

 脂肪が増加するときには、エネルギー消費量よりもエネルギー摂取量が上回っており、身体の中にエネルギーが蓄積する状態となっています。反対にエネルギー消費量がエネルギー摂取量よりも大きくなるとエネルギー収支がマイナスとなり、足りないエネルギーを補うために脂肪をエネルギーに変換します。

 このようなエネルギーバランスの仕組みによって、ヒトは食べられるときに食べて余分なエネルギーを脂肪として蓄積し、飢餓のときに脂肪をエネルギーに変換させて狩猟や育児をすることで生き延びることができたのです。

 これが、旧石器時代において「脂肪」が重要であった理由です。では、効率的に脂肪を増やすにはどうしたら良いのでしょうか?

 それは、エネルギー摂取量を増やすことであり、高エネルギー(高カロリー)な食べ物を摂取することが効果的な方法になります。

糖質や脂質を「美味しい」と感じるものが生き残った

 糖質、タンパク質、脂質といった三大栄養素のなかで、もっともエネルギーが高いのが脂質です。脂質は1gあたり9㎉のエネルギー量をもち、糖質とタンパク質は4㎉のエネルギー量をもちます。つまり、脂質の多い食事を摂ると、脂肪を蓄えやすいのです。しかし、旧石器時代では、脂質を多く摂取するには脂肪の多い獲物を狩らなければならず、あまり脂質の多い食事にはありつけませんでした(そのため、脂肪がたっぷりなお肉はご馳走だったのです)。そこで好まれて摂取されたのが糖質の多い樹の実や果物です。

 糖質はすぐに体内で代謝してグルコースとしてエネルギーに変えられるエネルギーコストのよい栄養素です。樹の実や果物の採集は狩猟よりも容易だったため、これらはエネルギーを得るのには効率的な食べ物でした。

 このように、脂肪を蓄えるために、糖質や脂質をなるべく多く摂取することが飢餓を乗り越えるための旧石器時代の食事戦略だったのです。ヒトは食べ物に対する好き嫌いがありますが、糖質や脂質を「不味い」と感じる個体は旧石器時代では生き残れません。糖質や脂質を「美味しい」と感じ、たくさん食べる個体が脂肪を蓄えて生き残り、子孫が繁栄することができました。その末裔が、私たち現代人なのです。

現代人の心は旧石器時代のまま

 進化心理学では、「私たちの心(脳)は旧石器時代のまま」だといいます。ヒトは数百万年という長い期間、アフリカのサバンナやさまざまな環境下に適応して進化してきました。

 そのため、現代でも私たちは本能的に暗闇を恐れ、自分の後ろに気配を感じると嫌な気分になります。これは旧石器時代に猛獣に襲われないために備わった感情です。

 旧石器時代において、男女における嫉妬心をもたない個体は、子孫を残すことができず淘汰されていきました。嫉妬する男女は相手を引き止めることができ、子孫繁栄に有利になります。その結果として、私たちの脳にも嫉妬心が受け継がれています。

 そして、甘い糖質や脂っこい脂質が多い食べ物を「美味しい」と感じるヒトは選択的に生き残ることができました。その末裔である現代人の脳には、糖質や脂質を「美味しい」と感じるプログラムがインストールされています。だから私たちは、甘いスイーツが大好きで、脂肪たっぷりのお肉やファストフードが大好きなのです。

 大好きな甘いスイーツを横取りされて怒りが湧くのも、「生き残るため」という理由があれば合点がいくでしょう。ヒトには「蓄えられるときに、できるだけ蓄える」という意識がインプットされているのです。

原因は「太りやすい身体」と「飽食の時代」

 私たちの心や身体の仕組みは半飢餓であった旧石器時代のままなのですが、生活や食環境は大きく変わりました。現代は、陸、空、海あらゆる交通網が発達しており、狩猟で走り回ることも、大陸を何日もかけて移動することもありません。さらに、ちょっと歩けばコンビニやスーパーがあり、糖質や脂質を豊富に含んだ食品を簡単に手にすることができます。また道には多くの自動販売機があり、糖質を多く含んだ清涼飲料水をいつでも飲めます。つまり私たちは「飽食の時代」なのに、心と身体は旧石器時代のまま生活しているということ。このミスマッチの結果が「肥満」なのです。

 ダイエットをはじめたものの、甘いスイーツや、肉汁がたっぷりのハンバーガー、油で揚げたポテトを見ると、あなたの旧石器時代のままの心はこうつぶやきます。

 「どんどん食べなさい」
 「脂肪を蓄えることが、生き残る術なのだから」

 これが、私たちの心や身体が太るようにデザインされている理由なのです。

<第3回に続く>

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