食の誘惑に負ける原因は睡眠!? 睡眠不足がダイエットの大敵になることも/科学的に正しいダイエット 最高の教科書

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公開日:2021/11/15

コロナ禍によるリモートワークが加速したこともあり、令和の新時代は“肥満”の原因があふれています。食べるのをやめられない、ガマンできない…。そんななか、ネットで見つけた「一瞬でやせる!」「~だけでやせる!」なんて記事や広告が目に留まりがちに…。

理学療法士にしてトレーナーである庵野拓将氏が執筆したこの『科学的に正しいダイエット 最高の教科書』には、科学的な知識を元にしたダイエット情報が満載です。スタンフォード大、ハーバード大、ケンブリッジ大、イェール大など、名だたる知の集積所にあるデータをまとめた、最新のダイエット知見を紹介しています。

「やせるおやつなら食べても大丈夫!」「テレビをつけたまま寝ると太る!」「ダイエットの成功の鍵は『筋肉』」などなど、無理なく健康的にやせたい人におすすめの1冊です。

※本作品は庵野拓将著の『科学的に正しいダイエット 最高の教科書』から一部抜粋・編集しました

科学的に正しいダイエット 最高の教科書
『科学的に正しいダイエット 最高の教科書』(庵野拓将/KADOKAWA)

科学的に正しいダイエット 最高の教科書

ダイエット成功への新機軸「睡眠」

なぜ私たちは意志がゆらぐのか

 なぜ、多くの人がダイエットをつづけられないのでしょうか? 現代の進化論はこの問いにつぎのように答えています。

 「ヒトは〝いま、ここ〞を大事にするから」

 第1章でも述べたように、ヒトは旧石器時代の生活様式(半飢餓状態)に最適化しています。このような時代では、得られた食料は「そのとき」にすべてを食べなければなりません。つぎにいつ食料を得られるか予測できない場合、目の前の食事をなるべく多く食べて、余ったエネルギーは脂肪に変えることが半飢餓の時代を生き抜く最適戦略だったのです。

 ところが現代では、コンビニやファストフード店に行けば、脂肪たっぷりの魅力的な食品が手軽に購入できます。これらを目の前にしたとき、旧石器時代のままの心は、こう語りかけてきます。

 「我慢しないで、たくさん食べて脂肪を蓄えよう!」

 ダイエット中に、ついつい甘いスイーツを摘んでしまうのも、ファストフード店で高脂肪・高カロリーなものを食べてしまうのも、旧石器時代から受け継がれてきた食欲がもたらす本能的な反応なのです。

 しかしダイエットの成功のために私たちは、本能に抗いながら食事管理や運動をつづけなければなりません。そこでカギを握るのは「意志力のマネジメント」です。

 ダイエットがつづかないからと「自分は意志が弱い」と責める必要はありません。原因は「意志力のマネジメントができていない」ことにあるかもしれません。

 ある実験を紹介します。

科学的に正しいダイエット 最高の教科書

 カーティン大学は、BMI(体格指数)が25以上ある肥満傾向で、ダイエット志向の強い学生を集めました。そして、スイーツの味覚調査という名目で「ある検証」を行っています。

 集められた学生には、調査の前に認知能力を検査すると伝えて「計算課題」を課しました。

 学生は2つのグループに分けられ、ひとつは1000から7を引いていく計算課題を「片足立ち」で行います。もう一方のグループは1000から5を引いていく課題を「両足立ち」で行います。これらの課題を終えた学生は、ようやくクッキーやチョコレートを食べる調査に参加できました。この味覚調査では、スイーツを食べる量も時間の制限もないため、学生は好きなだけ食べることができます。

 その結果、両グループのスイーツを食べた量を比べてみると、片足立ちで計算課題を行ったグループは、両足立ちで計算課題を行ったグループよりも多くのスイーツを食べたのです。これは、学生たちはダイエット志向があるため、スイーツを大量に食べることはないだろうという予想に反する結果でした。

 なぜ、片足立ちをしながらの計算課題をしたグループは多くのスイーツを食べてしまったのか。それは、片足立ちで計算を行うと意志力を消耗するためです。これがスイーツの誘惑に負けてしまった理由だと研究グループは考察しています。

 意志力は無限にあるわけでなく、限界があるのです。

 ダイエットをつづけるためには、意志力を消耗させる物事を避けることが大切です。仕事が忙しい時期、プライベートで悩みを抱えているときは、意志力が消耗しています。ダイエットを実行するときは、仕事の量を抑えたり、プライベートな問題を解決したあとなど身の回りを上手にマネジメントすることが大切です。

睡眠不足は、ダイエットの意志力を鈍らせる

 そして、意志力を消耗させないために、もっとも重要になるのが「睡眠」です。なぜなら、睡眠不足になると「意志力が低下してしまう」からです。

 テレビやSNS、ネット番組を見すぎて、寝不足になった経験は誰にでもあると思います。すると日中に頭は働かず、仕事も勉強も思うようにはかどりません。これは、注意力や記憶力といった認知機能が低下してしまうからです。

 これを科学的に明らかにしたのがカナダ・ウォータールー大学です。

 2017年、同大学は睡眠不足が認知機能に与える影響を調査した、61の研究結果を解析したメタアナリシスを報告しました。

 解析の対象となった被験者は1688名(平均年齢28.74歳)で、睡眠不足の時間は3.8時間ほどです。

 その結果、つぎに挙げる認知能力を低下させることが明らかになりました。

・持続的なタスクに集中する注意力
・目的や計画を明確にして行動する実行機能
・多くの情報を処理するワーキングメモリ
・欲望を抑制する抑制コントロール
・長期記憶
・認知機能全体の低下

 意志力には、これらの認知機能が関与しています。ダイエットの目的を明確にして、計画的に行うには実行機能が必要になります。また、「お菓子を少しだけなら食べてもいいかな」という欲望を抑える抑制コントロールも必要になります。

 睡眠不足になると意志力が低下してしまうのは、脳の「前頭前皮質」の機能に理由があります。前頭前皮質の機能がわかる事例を挙げましょう。

 ある建設作業の現場監督は、リーダーシップがあり、道徳的でバランスのとれた心をもち、問題解決能力も高く、まじめで多くの友人から尊敬されていました。

 ところが爆発事故に巻き込まれ、一命をとりとめたものの前頭前皮質を損傷したのです。事故後、彼の性格は一変します。衝動的になることが多く、欲求を抑えることができず、移り気で、仕事を計画的に行えなくなってしまったのです。

 脳の前方にある前頭前皮質は、ヒトの高度な認知機能である注意機能や実行機能、自己の抑制コントロールを司っています。前頭前皮質が働くことによって、自己をコントロールして衝動のバランスをとりながら、目的に向けて計画的に行動することができるのです。

 睡眠不足になると、この前頭前皮質の機能が低下してしまいます。前頭前皮質は、脳の血流により運ばれてくるグルコースを代謝することで機能します。睡眠不足になると血流量が減少し、グルコース代謝が低下してしまうのです。

 睡眠不足による前頭前皮質の機能低下は、意志力の低下を引き起こします。世間には多くのダイエット方法が謳われていますが、まず実践すべきは「十分な睡眠」をとることなのです。

<第4回に続く>

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