SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第8回「イッツノットマイフェイバリット」

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公開日:2022/2/27

 感性は人の数だけ。静かな海を見て涙を流す人もいるだろうし、歪(いびつ)に実った果実を見て美しいという人もいるだろう。そして、その感性の先にあるものが表現だと思っている。音楽を奏でたり、壁に描いたり、誰かと踊ったり。

 そして誰もが簡単に、意図せず行っている表現こそ「感想」だと思う。

 五感と感情の動きを言葉に変える。完璧に伝え切ることが叶わない心のうちを、自分の持つ言葉を駆使してどうにか伝えようとする。相手あればこその、愛おしい表現。

 それなのに私ときたら。

 先日その愛おしい表現を受けて、心をくさくささせてしまった。至らぬ自分が実に情けない。

 ワインを飲む機会があったのだ。

 ちなみに自分とワインにはこれまで殆ど接点がなく、これからも接点を持たないまま生きていくのだろうと思っていた。正直言うと「ワインを飲んでいる自分」に抵抗を感じていた。あれは品位や、ブルジョワジーが図らずも滲んじゃってる人間でないと口にしてはいけないアルコールだと思っていたから、どこかで、自分なんかが、と勝手に卑屈になっている節もあった。だから避けていた、という表現の方が正しいのかもしれない。

 そんな私が、今まさにナイフとフォークを前に着席し、一度として持つまい、と誓っていたワイングラスなるものに軽く手を添えている。招いて頂いた、という唯一の免罪符をもう片方の手に握りしめ、背中に汗が滲むのを感じながら視線を泳がせていた。

 それは数人での食事会であった。普段であれば、晩御飯や飲み会などという表現をするのだろうが、何せ一杯目からワインの会合である。紛れもなく食事会だ。

 私の隣に座るのは、こういった類の食事会が日常茶飯事であるかのような空気を纏った女の子だった。グラス以上の重さは受け付けないくらい華奢な手で、赤ワインの入ったグラスを持ち上げて色を確かめていた。歳の頃は二十代後半といったところか、明かりに透かしたワインを眺め満足そうに頷いたその子は、口にゆっくり含んだそれを、しばらく吟味してから飲み込んだ。

 私は先程乾杯するやいなや、色も香りも確認せず半分以上を飲んでしまっていたので、どうしようもなく恥ずかしくなって顔を俯かせた。

「エレガントですね」

 顔をあげると女の子が私に向かってそう言っていた。

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しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催する。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中


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