SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第8回「イッツノットマイフェイバリット」

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公開日:2022/2/27

「え」

 彼女は目を丸くしてグラスを眺めた。今飲んだそれの正体を暴こうとするようにまじまじとワインを眺める。味と香りから拾い集めた答えの片鱗を、目の前の紫色からも探しているに違いない。

 早く感想が聞きたい私は、どうしたんですか、と無粋な質問をしたくなる。グッと堪(こら)え、ジッと耐えた。

 そして長い沈黙の末、幾つかの片鱗が一つの答えとなり、ついに「感想」となって彼女の口からゆっくりこぼれた。

「広い」

 なんだこいつ。

 反射神経とは怖いもので、思ったその一言が口から飛び出そうになった。

 彼女の感受性の泉は枯れることなく、次に湧き出た言葉を私に浴びせた。

「これ、フルーティーですね」

 私はなんかどうでも良くなって応えた。

「いや、まア、果物っすからね」

 いよいよ馬鹿らしくなって、何も考えずにワインを飲んだ。彼女は私の反応を待っている様子だったので、「うまいっすね」と続けてあげた。

 彼女はその後に続く言葉を期待していたようだが、これで終いだとわかると「あら」といった類の表情を浮かべた。

 感性は人の数だけ。だから感想だって数多あって然るべき。それは違うとか、間違ってるとか言う資格は誰にもないのだが。感想に対する感想もまた、人の数だけあったりする。

 全然足りなかったので帰り道に親子丼を食べた。広かった。

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しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催する。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中


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