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界 (文春文庫 ふ 19-4)

界 (文春文庫 ふ 19-4)

界 (文春文庫 ふ 19-4)

作家
藤沢周
出版社
文藝春秋
発売日
2019-04-10
ISBN
9784167912567
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界 (文春文庫 ふ 19-4) / 感想・レビュー

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鉄之助

ねっとり、まとわりつくような「エロス」と「匂い」が散りばめられた連作短編集だった。50過ぎ男が、歌枕に登場するような風韻な全国各地を放浪。指宿の砂風呂では、「見知らぬ女が覆い被さってくるのを想像させる。……このまま砂に埋もれて、白骨化するのもありだよねえ」。意表を突く”転調”も良かった。天井のスプリンクラーの影を見てアポロ11号の長い影を連想。ミニチュアのアームストロング船長が、天井を歩いて、月の石ではなく誰かの骨を拾おうとする。「生きていれば、へばりつくものだらけだ」。名言だなぁ!

2023/05/11

ケンイチミズバ

お母さん必ず立派に体当たり致します。今の平和があるのは英霊たちのおかげだから、っていうのも嘘。戦死した人たちは決して浮かばれない。それを美化するのはもっと嘘です。女といっしょの時間にこんな口論になるのは嫌だとわかっていながら誘う。知覧に行くなら私は行かないと言われ、行く行かないで揉める。結局遺書を読んで恥ずかしいくらい号泣してしまい、年配の同行者からも驚かれる。その後、歓楽街で飲みながら来なかった女との情事を思い出してポコチンが硬くなっている時もチラチラ遺書の文言が頭をよぎる。こんな文学もありなのかあ。

2020/02/06

南雲吾朗

ただの中年エロジジィをこれ程までかっこよく描けるものか?!盛りの時期を過ぎた寂しさを漂わせつつ、それでいてどこか獣じみた男。日常に突然浮かぶ退廃的で艶めかしい記憶。街の喧騒の中、ふっと、自分が何処に居るのか、今はいつなのかが解らなくなる不安。現実と非現実の境界が曖昧になる。この人はなぜこんな描写が出来るのだろう?世界の見方が常人とは異なる、まるで異界の者の見方。まさに怪物、藤沢周。この小説が「界」と名付けられたのも納得。

2019/07/01

hit4papa

榊という名の、妻と別居中の、一回り下の愛人がいる、新潟出身の、50代の作家らしい人物が、行く先々で物思いに耽る連作短編集です。著者その人を投影しているのでしょうか。読み進めるうちに主役のバックボーンが分かってくるのですが、全編を通して、この年代独特の倦んでいる感が漂います。大きな出来事か起きるわけではありませんが、作家の目を通すと、異界の入り口にいるような錯覚に陥ります。登場する女性たちへの、主人公の視線は、少々枯れかけたエロチックさがありますね。「指宿」「化野」などのその地のトリビアは興味を惹かれます。

2022/11/08

torami

短編9本。 最初二つくらいまでは、「えっろいことばっかやなこのすけべオヤジ」と中学生じみた感想を抱いていたが、今まで私が触れてきたものとは様相が異なることに俄に気づき始める。そうか、これがエロスというものか、と。 なるほど確かに榊の妄想は不埒なのだが、そこには品があり趣があり儚さがあった。 不思議な引力で目に留まり、レジに持っていった本。それは妖しげな界(さかい)に引きずりこまれるかのような読書体験だった。 付け足し。新潟、横浜と縁のある土地が登場するのもよかったです。この二ヶ所には弱いのです。

2019/05/02

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