夢の扉: マルセル・シュオッブ名作名訳集
夢の扉: マルセル・シュオッブ名作名訳集 / 感想・レビュー
HANA
瀟洒な造本に相応しく、シュオッブの名品を文学者、詩人問わず名うての訳者たちが訳したものを収録。その為各作品の内容はおろか日本語の美しさまでも存分に堪能できる内容となっている。素晴らしいのは「少年十字軍」の上田敏や堀口大学、日夏耿之介といった詩人の読み比べが出来るところか。訳者によってこれほどの違いが出るのかと驚くと同時に、言葉の響きにも陶然とさせられる。個人的に何より好きな「黄金仮面の王」や「吸血鳥」は矢野目源一の訳が好きなのだが、当然のように収録されていて大満足。まさに言葉の粋を集めたような一冊である。
2023/12/31
藤月はな(灯れ松明の火)
幻想に揺蕩う事を耽溺する多くの作家・読者を魅了してきたマルセル・シュオップの作品群。それらを名翻訳家12人の手が紡いだ古色蒼然たる日本語の美文を読み比べ、味わえるとは何て贅沢!流石は国書刊行会である。同じ作品でも訳者によって文章の雰囲気や題名も変わってくるのが醍醐味。また、個人的に日影丈吉氏による訳文が収録されていて嬉しい。最初の5篇の求道者の生き様が日常の垢に塗れて生きる者にとっては鋭利。特に人間生活を捨ててまで造形と輪郭を極限まで追求した「絵師パウロ・ウッチェロ」に『名人伝』(中島敦)を重ねてしまう。
2024/02/11
ゆう
シュオッブ初読のため、序盤は伝説の時代の話ばかりで退屈な展開だと思っていたが、後半に進んだ頃には気付かないうちに好きになっていた。特に、二人の翻訳家が訳した短篇を読み比べるとどちらも良い味わいで面白かった。歴史的仮名遣いのものが多く、脳内で朗読しているつもりでゆっくり読むと楽しい。読み進めることでどんどん癖になる、よく咀嚼することで後から旨味がくるという感じだった。退屈に思っていた前半部を再読してみたいけど、まずは解題で紹介されていた本(ボルヘスの作品や『マルセル・シュオッブ全集』)を先に読んでみたい。
2023/12/14
rinakko
どの作品も翻訳違いで再読。なのだが、流石は “十二人の翻訳者の手になる名作名訳” はとても贅沢な内容でうっとりする読み心地だった。とりわけ戦前の文章の味わい深さは格別でもあり、そもシュオッブの名文家ぶりが往時の仏文学者や詩人たちを如何に魅了し、その翻訳に腕を振るわせたかが窺われる。素晴らしい作品集だった。
2023/12/04
まぼろしねこたろー
銀色の背文字が眩い堅牢な函入りの瀟洒な装幀で、カラー口絵三点、挿絵七点入りで愛書家心を擽ります。文字が大きく読み易いので上田敏や日夏耿之介ら昔日の学匠による旧仮名遣い(漢字は新字体)の古色蒼然たる訳文を心ゆくまで堪能できます。どれも一癖ある十二人の訳者(十二使徒?)による、雑誌やアンソロジーに掲載されたまま埋もれていた訳を中心に編集されていて(既に単行本化されている矢野目源一訳は五篇のみの収録です)、同一作品の重複もあり、『マルセル・シュオッブ全集』を既に購入済みの人向けのマニアックな内容になっています。
2023/12/04
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