サド・マゾ・フェチ・レズ…。大人になった今だからこそ読みたい谷崎潤一郎名作5選

文芸・カルチャー

公開日:2018/7/22

 明治から昭和にかけて、日本の文壇は大きく花開いた。その中で「性愛」というジャンルをしっかりと埋めた文豪こそが谷崎潤一郎だろう。一般に耽美主義(※)に分類される谷崎の作品には、数多くの「癖のある」女性が登場する。現在とは比べ物にならないほど女性に対する性的な縛りや固定観念が強く、貞操が重要視された時代に、フェティシズム、レズビアン、サディズム、マゾヒズムなどを切り口に、性に自由に生きる魅惑的でラディカルな「新しい女性」を書き続けた。

(※)たんびしゅぎ:思想・道徳的規範よりも美の享受・形成に最高の価値を置く立場。生活を芸術化して官能の享楽を求める。

 谷崎潤一郎は間違いなく「文豪」の括りに入る大作家であるが、一般的に小中高の国語の授業では馴染みのない人物でもある。それは、「性愛」や「性的嗜好・倒錯」が大きなテーマとして扱われるため、教育の材料として扱いにくいためだといわれている。

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 そういった観点からも、“大人になった今こそ読みたい文豪”としては、谷崎潤一郎は間違いなく第1位だと筆者は感じる。谷崎文学から得られる見地は「性」から「生」まで、「きれいごとだけではない世の中」を生きていく私たちの力となり、パートナーと向き合う中で生まれる愛情、屈折、嫉妬、興奮、憎悪など、多くの感情を理解していく上でも、大いにヒントを与えてくれる。

 本稿ではそんな谷崎潤一郎の不朽の名作をご紹介したい。

■この美しい肌に刺青を彫りたい——『刺青』

 有名な腕利きの彫師の男が、長年探し求めていた「理想の肌」と出会う物語。彼は少女の肌にほれ込み、一心不乱で彼女の背中に大きなジョロウグモの刺青を彫りこむ。出来上がった少女はまるで別人で、その凄まじい魔力的な美は、彼自身を食い物にするほどであった。

■奥様の不倫相手は魅惑の美少女——『卍』

 奔放な人妻の不倫相手は年下の美少女。魔性の美を漂わせる少女に、周りの人間は男女問わず愛を暴走させてしまう。最終的には、妻と少女、夫と少女が同時に関係を持つという状況になり、美しいものを愛する気持ちは、すべてを壊していく。

■妻にするために少女を育てるが、奴隷に——『痴人の愛』

 真面目な男が、少女を自分好みに育てる物語。しかし実際に出来上がったのは、大変頭のわるく性に奔放な女だった。しかしその身体だけは、とんでもないほど「良い女」へと成長していく。次第に男は少女の肉体の奴隷となってゆく。

■愛する人のために盲目になった男——『春琴抄』

 サディスティックな女師匠と弟子の間に結ばれた深い愛。暴漢に熱湯を浴びせられ、顔が爛れた女師匠。その醜い顔を見ずにこれまで通り愛しあうために、男は自ら両目を針で刺して失明する。究極の愛のかたちを痛々しいほど鮮明に炙り出した名作だ。

■昭和の婚活事情と奔放な妹——『細雪』

 凋落する名家の縁談物語。おしとやかで保守的な三女と、男を転がす奔放な四女。ふたりの結婚と、女としての生き方が長編で描かれている。美少女が下痢をするという終末には呆気にとられるが、これが谷崎の美学の真髄とも言えよう。

文=K(稲)