主人公「僕」の視線が新鮮な第31回SF大賞受賞作

小説・エッセイ

2013/2/11

ペンギン・ハイウェイ

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : KADOKAWA
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:森見登美彦 価格:669円

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森見登美彦節というのがある。森見登美彦セツではない。ブシである。
だいたい森見ファンはこの森見節に手もなくやられる。どういう節かというと、すました顔してボケをかますお茶目スタイルだ。可愛い~んのである。可愛い上にすこぶるスマート(頭が切れるという意味)なのだからたまらない。ついつい次の1冊に手が伸びるわけだ。

ところが本書では、森見はこの文体を捨てた。この文体では描くことのできない新しい「世界」に踏み込んでいこうとしている。私はこちらもすこぶるステキだと思った。

小学4年生の「僕」が住んでいるのは郊外の住宅地だ。次第に家が建て込み始めたが、「僕」が越してきた頃はなにもない原っぱのど真ん中のような場所だったし、いまも少し離れたところには森が広がっている。

ある日「僕」は登校の途中で、空き地にペンギンが群れているのを発見する。動物園から逃げたわけでもなく、なぜ突如ペンギンが現れたのか見当もつかない。しかし、そのペンギンが捕獲されトラックで運ばれる途中で煙のように消えてしまい、謎はますます深まるのだった。

「僕」は、ペンギンが好んで通る道をそう呼ぶことから、この現象を「ペンギン・ハイウェイ」と名づけ研究することにした。

すると、ペンギンの出現をさらに上回る不思議な出来事が次々起きる。どうやらこの事件は、「僕」の大好きな歯医者のお姉さんにかかわりがあるらしいのだが…。

第31回日本SF大賞を受賞したこの作品では、もちろんマカ不可思議なお話の進み方も面白いのだが、もっと魅力的なのは「僕」が世の中を、風景を、人間を見つめる目の新鮮さだ。私たちはものを見るとき、それまで生きてきた間に身につけたあるパターンに照らし合わせて構造化する。構造化というのは、まあ解釈するぐらいの意味だ。理解するでもいい。

でも「僕」の視線は、まだパターンがないからつねに「新しいもの」に出会うことになる。だから「新しいもの」をあらわす、「新しい言葉」が発明されてゆく。それらの「新しい言葉」が私たちの胸に強く訴えるのだ。

「僕」が「世界」に接するのと同じ感じ方が、私たちの視線に憑依する快感が、本書の忘れられない切なさとじかに結びついている。

私たちがまだ人間発達途上の頃、やっぱりこうして世界を見つめていたと、誰もが思い出すことだろう。


文体はいつもの森見モードとちょっと違う

僕は空き地にペンギンの群れを見つける

ぼくのお気に入りは歯医者のお姉さんだ

風景を綴るぼくの視線は新鮮だ