不倫公認のセックスレス夫婦の日常―『にこたま』渡辺ペコが描く、結婚の嘘と真実

恋愛・結婚

2017/7/13

『1122(いいふうふ)』(渡辺ペコ/講談社)

「いい夫婦」ってなんだろう? お互いを愛していれば「いい夫婦」だと言えるだろう。けれど、この「愛」の意味が複雑だから、「いい夫婦」の定義は難しくなる。

『1122(いいふうふ)』(渡辺ペコ/講談社)は、「本当にいい夫婦の関係」を見つめなおすチャンスをくれるようなマンガだ。

 著者は『にこたま』でおなじみの渡辺ペコ先生。男女の機微や情けない部分、汚いことなどの「暗部」も見事に活写できる、今一番「ドラマ化したらうけるんじゃないか?」と思っている作者である(個人的に)。

 本作は結婚7年目の30代夫婦、一子(いちこ)と二也(おとや)の物語。子どものいない二人は、お互い経済的に自立しており、仲が良く、信頼し合っている最高のパートナー。けれど、夫の二也には「妻の一子公認の不倫相手」がいた。

 二也は、既婚者の女性で子持ちの美月(みつき)が好きで、それを一子も知っている。一子にとって、夫はもはや「ときめき」や「ラブラブ」の対象ではなく、「家族」であり「相棒」のような存在だった。

「『恋愛』を家庭に持ち込まない」「第3木曜日は月に一度のお泊まりの日」など、しっかりと家庭内ルールを定め、一子は「夫に恋人がいる」ということを認め、日常を過ごしていた。「信頼や敬意や理解や思いやりは、いっときのドーパミンどばどばや性欲の盛り上がりよりも、大切だと思ってた」と一子は語る。「うちで生活・そとで恋愛」というのが「合理的」なあり方だと思っていたのだ。

 夫の二也も、一子を「家族」として大切にしており、定められたルールをしっかり守って「外で恋愛」をしている。

 だが、そんな生活も一年経ち、一子の心に「モヤモヤ」が生まれ始めていた。それは夫を愛しているからの独占欲とか、嫉妬心とか、そういった類の感情とは、少し違う(そもそも、そういう気持ちがあるなら不倫を公認しない)。

 二也は「好きな人がいるから」と一子とのセックスを拒む。それ以前にも、セックスレスの夫婦であり、一子はそれをさほど気にしていなかったのだが、美月との恋に夢中になり、「キラキラ」している夫を見ていると、一子の性欲や、恋愛欲求も刺激され始めていく。

 夫は外に恋人がいる。その夫は自分にとってかけがえのないパートナーだ。だけど、「恋」は? 自分の「性欲」は? 一子は「いびつな夫婦かもしれない」「でも、自分たちのやり方で家族になる」と「いい夫婦」を模索していく。

 このマンガを読んでいると、一子同様「モヤモヤ」する。夫の二也が恋人の美月とピクニックに行ったり、LINEで「(二人の関係を)ゆっくり大事にしてこうね」「すごく好き」「わたしも好きです。すごく」とかいイチャイチャしたやり取りを見たりすると、モヤモヤするし、めちゃくちゃ二也にイライラする(笑)。

 美月は子育てと理解のない夫とモンスター義母に疲れて、「非日常感」を味わいたいだけだから、いいように利用されてるだけだぜ二也! とか意地悪なことを思ったりする(美月の本心は明かされていなので分からないけれど……)。

 なのに、どうしてかこの夫婦の「これから」を読みたくて仕方がないのだ。それはきっと、「こういう生活もいいかも?」と思ったことが、既婚者には少なからずあるからかもしれない。夫婦生活が続けば、当然いつまでも恋愛初期のラブラブは続かない。夫(妻)は大切な人だし別れる気はないけれど、「ときめき」や「恋愛」はしたい。そう思うこと自体は、おかしなことではないように感じる。

 だが実際は一子のように、「夫の不倫を公認」することは気持ち的にも、世間的にも難しい。その、実生活で自分はできない「もしも」を、本作の登場人物たちが体現してくれているように思えるのだ。だから続きが気になるし、かなり突拍子もないことをしている一子にも二也にも感情移入ができる。物語に入り込んでしまうからこそ、二也にもイライラしてしまうのだ。

 本作は続き物なので、これから一子と二也がどうなるのかは分からないのだが、彼女たちなりの「いい夫婦」を、見届けたいと思う。

文=雨野裾