井上祐貴主演でドラマ化! 憧れの先生が拉致された…事件解決のために奔走する4人の高校生のタイムリミットミステリー

文芸・カルチャー

公開日:2022/4/8

卒業タイムリミット
『卒業タイムリミット』(辻堂ゆめ/双葉社)

「このミス」大賞優秀賞でデビューし、本年度の大藪春彦賞を受賞した作家・辻堂ゆめ氏による青春ミステリーの傑作『卒業タイムリミット』(辻堂ゆめ/双葉社)がNHK総合でドラマ化される。出演は、井上祐貴、桜田ひより、西山潤、紺野彩夏。青春の痛みときらめきを描き出したこのミステリーは、一体、どのように映像化されるのだろうか。原作を読んだことがないという人は、ドラマの放送に合わせて、是非とも書籍でもこのスリリングなストーリーを体感してみてほしい。

 舞台は「一人一人に居場所を」を校訓に掲げる欅台高校。誰にも心を開くことがなかった元不良の黒川良樹は、担任の数学教師・伊藤倫太郎の支えによって、3日後にはこの学校を無事卒業予定だ。だが、そんな時、生徒に人気の英語教師・水口里紗子が誘拐され、黒川のもとに犯人からの挑戦状が届く。「誘拐の謎を解け。真相は君たちにしか分からない」。同じ挑戦状が届いたのは、元サッカー部でスポーツ万能の荻生田隼平、校内ミスコングランプリの美少女・小松澪、そして幼馴染みで学年一の秀才・高畑あやね。幼馴染同士の黒川とあやねは最近は話す機会も減っていた上、その他のメンバーとは今までほとんど関わりがなかった。拉致された水口とのつながりも決して深くはない。どうしてこの4人が集められたのか。命のタイムリミットは72時間。困惑する彼らは、黒川が信頼する担任・伊藤を巻き込み、協力して事件の謎に挑むことになる。

 事件の鍵となるのは、「告白カード」。この高校には、毎月、自分が抱えている悩みを作文として提出する「告白カード」という制度があり、この物語では誰が書いたものか明かされないまま、複数の「告白カード」の内容がストーリーの合間に挿入されていく。

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 どうやら集められた4人の高校生にはそれぞれ胸のうちに抱えている悩みがあるらしい。恋の悩み、部活の悩み、進学の悩み…。4人の悩みがどうやって事件へと結びついていくのか。自身の秘密を隠したまま、事件と向き合う彼らは、犯人は学校関係者に違いないと推理する。刻一刻と迫るタイムリミットに読み手も自然と鼓動が速くなる。

 そして、クライマックスでは度肝を抜かれた。伏線がちりばめられたミスリードはなんて見事なのだろう。事件の真相、そして、その先に明かされる大きな秘密にはあっと驚かされてしまう。

 青春の日々は甘酸っぱいだけではない。ほろ苦さだって付き物だ。どうしようもなく悔しい時も、涙が枯れるくらい泣き腫らす時もあるだろう。卒業を前にして起きた事件に巻き込まれる中で、悩みを抱える4人の高校生は何を思うのだろうか。卒業間近とはいえ、今までほとんど関わりのなかった彼らの間には確かな絆が育まれていく。そして、事件の果て、一人一人の成長と心境の変化に胸が熱くなった。

 高校生たちの学園ミステリーには、今まさに青春を過ごしている人も、かつて青春時代を過ごした人も、気づけばすっかりハマり込んでしまうに違いない。張り巡らされた伏線と鮮やかな結末。手に汗握る展開にハラハラドキドキさせられる。ドラマでは原作からアレンジされた部分もたくさんあるというから、その違いも気になるところ。ドラマではどう描かれているのか、原作とはどう違うのか。その違いも楽しんでみてはいかがだろうか。

文=アサトーミナミ

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