SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第19回「むかし話」

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公開日:2023/1/27

 次は「こぶとりじいさん」。

 右の頬に大きな瘤があるおじいさんが主人公。小太りのおじいさんの話では断じてない。ある日おじいさんが山に出かけたところ雨に降られてしまう。雨宿りのために飛び込んだ洞窟では運悪く鬼がパーティー中、見つかって踊らされる。

 たまたま踊りが上手かったおじいさん、明日も来てくれと頼まれたが、面倒臭いなアと渋っていると、「お前の大事なものを質に預かる、明日来たなら返してやる」と瘤を取られる。

 おじいさん大喜び。

 翌日村に帰ると、「どうしたんだ、瘤がないじゃないか」と隣のおじいさんが驚く。隣のおじいさんの左頬にも瘤があることに読者はもっと驚く。どんな村だよ。おじいさんにことの顛末を聞かされた隣のおじいさんは、俺も行ってくるわ、と意気揚々と洞窟に向かう。

 鬼はこの晩もやっぱりパーティー。昨日のおじいさんと今日のおじいさんの見分けがつかない鬼はまた来てくれたと大喜び、隣のおじいさん踊らされる。

 でもたまたま踊りが下手だったおじいさん、瘤を取られるどころか、「お疲れ、もう来なくていいよ」と昨日のおじいさんの瘤をくっつけられる。

 隣のおじいさん泣きながら帰る、というお話。

 

 は?

 

 この話の教訓を未だに考え続けているのだが、現時点では「踊れた方がいい」で着地してしまっている。

 なぜならこの最初に出てくるおじいさん(以下、右じい)、やったことは雨宿りとダンス。お前の大事なものを預かると、大事でもなんでもない瘤を取られたことを良いことに、明日も来てくれ、という約束は平気で反故にしてしまっている。この話にこれだけわかりやすく要点となりうる形で「約束」が登場するのであれば、この後は、約束をきちんとフィーチャーさせるように展開していった方がいいのではないかと。以下提案。

 右じいは相手が鬼だとはいえ、一度した約束は守る、と隣のおじいさん(以下、左じい)と一緒に鬼のもとに赴くことを決める。正直に、瘤が大事なものでなかったことを詫び、二人で昨日より楽しい踊りを踊るから左じいの瘤も取ってくれまいか、と鬼に打診。その後バシッと実行し、しっかり鬼を喜ばせ左じいの瘤も除去。二人は綺麗な顔で帰還。

 が、美しいと思う。しかし本筋で右じいは、鬼をただの瘤を取るためのツールとしか見ていない。使えるんなら使ってみたら? くらいライトに左じいに話した挙句、本人はそれ以降物語に登場すらしない。翌朝、左じいが両頬に瘤つけて泣きながら帰って来ても、家からも出てこない。自分の瘤取れたらクランクアップ。どうにも薄情な印象が拭えない。

 そしてあらゆるところでこの話を色々読んでみたが、殆どの冒頭で右じいを「優しいおじいさん」、左じいを「意地悪なおじいさん」と事前にキャラクターづけるところから始まる。これは実によろしくない。セットアップ時に無闇に先入観を持たせるのはかなり卑怯なので、物語の中だけで完結させるべき。

 あと待って、そもそもの話いい? 大前提、この人さ「こぶとりじいさん」じゃなくて「こぶとられじいさん」じゃない?

 結論。

 この話の教訓は「隣人は隣人の域を越えない」もしくはやっぱ「踊れた方がいい」だ。

 

 昔から継がれてきた話というものには、当然のように教訓がある。読んだ人間の、もしくは読み聞かせてもらった人間の心に染み入るような教訓が。大人になった時に、この話に違和感を持って自分で考えなさいね、がこれらの話の教訓への導線だとしたならば。煙に巻かれて踊らされ、こんな文章書いてる私は実にめでたし。

SUPER BEAVER渋谷龍太

<第20回に続く>

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しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催する。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中


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