SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第25回「どうしたの」待ち

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更新日:2023/7/28

 端的に物申すと、まじ面倒臭い。

 自分の気持ちの処理に他人の力を要することなんて誰にだってある。ただそれは自分から働きかけた上で、時間と気持ちを拝借するのだ、という心根のもとでのみ許される行動であり、他人様にまずはきっかけを作ってもらおうなんざ、お腹がすいたタイミングで勝手にピザが届くことを待っている状態に近い。自分で選んで、自分で注文して、自分でお金を払うことを端折ってしまっては、ピザは届くはずがないのだ。

 ただ、私をはじめ、そんな人間にピザをうっかり届けてしまう人間は案外少なくはない。性根から本当に親切で、そんな人は絶対にほっとけるわけがないと出来立てのピザを持参して玄関のチャイムを押す者もいれば、私のように、まじで面倒臭いなアと思いながら冷めてチーズの固まったピザを嫌々持ってくる者もいる。でもお腹が空いた状態で玄関を開ける人間はピザが出来立てであろうが、出来て四、五時間経っていようが関係ない。空腹が満たされればそれで構わないのだ。お腹がいっぱいになったら、それでおしまい。どうしてピザが届いたのだろうとか考えることも、ましてやお金を払うこともしない。

 ならばいっそ無視しても構わないのではないかとも思う。ただそうもいかない理由がちゃんとある。先程は謂れのない恨みを買う可能性というのを一つ例にあげたが、実はそれより大きな理由があるのだ。それは私自身が、気が付いてしまっている、という事実だ。そして背景にまで考えを及ばせているという事実。気付いて考察までした上で無視をするということは、勝手にピザを待つよりも、卑しい行動なのではないか、とどうしても思ってしまうのだ。気が付いていなかったり、気が付いていたとしても考えることをしていなかったのならそうはならないと思う。でも、全部わかってて、それなのにあえて触れないのは意地が悪い気がしてならない。

 だからそういう人に向ける私の「どうしたの」の正体は親切なんかではない。ただただ自分と折り合いを付けるためだけにある「どうしたの」なのだ。

 ふん。虚しい。

 私は思う。ピザは自分で注文した人に、そしてすごく注文したいのにのっぴきならない理由で注文を我慢している人に届けたい。その時のピザは丁寧に調理し、釜から出してすぐのアツアツの状態で食べてもらいたい。そんな時私はいつだってお金なんて必要ないと思っている。ただ自分が届けたくて、食べて欲しくて、自らの意志でデリバリーしたものだからだ。なんというか、それが健全なコミュニケーションなのではないだろうか。

 相手の時間と気持ちを拝借するのだ。コミュニケーションって凄いことなのだ。だからそれを忘れちゃいけないよね、って私は思う。

 アツアツのピザだけデリバリーしあえる関係がたくさん築けたなら、それはなかなかに素敵なことだよね。なんだかそんなことを思いましたとさ。

 

 そういえば、小渕さん(※)がニューヨークタイムズ紙に「冷めたピザ」って言われたのを受けて、「冷めたピザはレンジに入れれば温まる」って返して、「温め直したピザは美味しくない」っていう一連のやりとりが昔あって、それに対して私は、わかりにくいから比喩でやりとりすんなよ、って思ったことがあったよね、私。ん、あれ。

(※)小渕恵三元首相

SUPER BEAVER渋谷龍太

<第26回に続く>

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しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催する。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中


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