SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第29回「有名人」

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更新日:2023/11/28

「彼女のTシャツなんす」

 

 彼女のTシャツ!

 

 ドラマの回想シーンのように、先程までの私の行動が蘇る。

 風を気持ちいいと感じる渋谷。

 心を穏やかにする渋谷。

 雑踏を颯爽と歩く渋谷。

 いたずらそうな表情で彼の横につく渋谷。

 あ、どうも、的なすまし顔で「いつもありがとう」と言った渋谷。

 情けない顔で自分たちのバンドのTシャツを指差し「だって」って言った渋谷。

 顔から火が出るとか、頭が真っ白になるとか、なんかそんな表現あった気がしますけど。これっすね、言い得て妙だわ。まんまじゃん、すごいよ先人。

 もう超狼狽。動転して、混乱よ。満員御礼、感情の動物園でいつも横にいてくれる平静さが急にいなくなっちゃってまじ半べそ。微動だにしていないのに迷子。ちなみに表情は「無」。全て内包して「無」。

「へエ」

 今、へエ、って言ったのが自分ってことに驚いて肩がピクってなった。その後、無意味に何回か頷いて、また私は口を開こうとしている。私はなにか言おうとしてるみたいです。物凄くこわい。

「よろしく」

 

 よろしく!

 

 何に対してだよ。彼からしたらもっと意味不明だったろう。私の右手がスッと上がって、別段なんの意味もないサインを作った。彼はなんだろうと、私の右手に目を凝らす。

 

「よろしく」という言葉と、謎のサインを残してスッと目の前からいなくなった男を、君はどんな風に思った? 歌舞伎町という街に溢れる、ちょっと頭の中が不思議な人のうちの一人と感じてくれてたら救われるんだけど。ちなみに、彼女に今日のことを話すのだけは、やめておいてくれないかな。間違っても検索なんてしないで欲しい。出てきたアー写を見て「あ!」とかなってしまったら、私はこの先うまく笑うことが出来ないと思うから。いいね、今日君が出会ったのはちょっと頭の中が不思議な人さ。わかるよね、歌舞伎町では珍しくない、ただの不思議な人だよ。

 

 最後に、本当に大事なことなのでもう一度言っておく。私は有名人ではない。

SUPER BEAVER渋谷龍太

<第30回に続く>

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しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催する。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中


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