SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第30回「宝くじ」

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公開日:2023/12/27

「ほら」

 次の週、同じ店。席に着くなり彼は得意げだった。

「ん、なに、くれんの?」

「配当は俺に10%な」

 差し出された数枚の宝くじを受け取って、私は言った。

「えエと、三千万ってことね」

「そうそう」

「わかった。ちなみに20%でも全然いいけど?」

「マジかよ、いいやつだな。ありがとう」

「いや、当たってから言ってくれ」

 私は笑いながら、丁寧に封筒にまで入れてくれた宝くじを鞄にしまい、お礼を伝えた。

「失くすなよ、俺の六千万」そう彼が言ったタイミングでビールと緑茶ハイが到着した。「当選発表は月末だから」

 いつものように乾杯して、生産性度外視の話をしながら、この日も大いに飲んだ。「一旗揚げてやろうぜ」と結局また同じような感じで締めくくり、白む空の下を歩いて、駅を目指した。

 月末。

 彼から『六百円でした。お前は?』とメールが入った。私はバイトの制服に着替えながら『わるい、まだ確認してない』と返信した。彼はそれ以上催促をしてこなかったし、私も、明日確認しよ、くらいの気持ちでいた。しかし翌日から遠征だったため、次の日も、その次の日も確認することが出来なかった。

 月日が流れて。

 バイトの時給が上がったりして。

 髪が伸びたりして。

 気がつけばうっかり二年近く経っていた。

 思ったより流れてしまった月日の中の、宝くじとなんの関係もない一日。歩いていたら急にそのことを思い出し、薄情なことに確認していなかったことも併せて思い出した。『本当ごめん』『何が?』『宝くじ確認してない』『なんの話?』『お前からもらった宝くじの当選確認してない、ごめん』『わ、最低。罰として一千万な』『六千万じゃなくて平気?』『六千万? ってか一体いつの話してんだよ(笑)』。

 どうにもならないことはもちろんわかっていたが、家に帰ってすぐに宝くじを探した。換金の期限はとっくに過ぎている、でも無性に結果が気になったのだ。ただ、確かここにしまったと思しき棚から発見されなかった宝くじは、結局どこを探しても見つかることはなかった。

 小一時間後、色々とひっくり返して探しまくった部屋の真ん中に佇む私は、天井を仰いで思った。

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しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催する。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中


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