官能WEB小説マガジン『フルール』出張連載 【第53回】斉河燈『【お試し読み】恋色骨董鑑定譚~クラシック・ショコラ~』

公開日:2014/8/12

 コーヒーを傾ける有礼さんの左で、わたしも目の前に置いたカップに右手を伸ばす。

 蝶々が椀の横で休んでいる形のカップは、彼のお気に入りのアンティークだ。当初、一客しか見当たらなかったこれは同棲を始めた途端に二客に増えていた。きっとペアにしてくれたのだろう。そう察して使っている。

 すると、カップに指先が触れそうになったところで、彼の左手がわたしの動作を阻んだ。手首を掴んで持っていかれて、指先をきゅっと握られる。

「え、あの」

「コーヒーのお預けを食らった仕返しだ。しばらくこうしていろ」

 冷めるまで飲むなと言いたいんだろうか。でも左手は自由だし、だから取ろうとすればカップくらいは取れるのに。そう思って、右手の指先がじんわりと温まってきたことを感じて、はっとした。

「あ……」

 冷えた手を温めてくれているのだ。

 気付いたら、手だけでなく頬までふんわり温かくなった。

「……ありがとうございます」

「ほう。虐げられて礼を言うとは、夏子はとんでもない被虐愛者だな」

「さ、さも変態みたいに言わないでください」

「そこまでは言っていない。ほら、そっちの手も貸せ。反省が足りない奴は両手ともに拘束だ」

 熱々が好きだと言っていたくせに、有礼さんは飲みかけのコーヒーを傍らに避け、わたしの両手を自分の膝に載せる。そうして、骨張った右手を上から被せた。

「阿呆め。冷えきってるくせに余計な用事でうろうろするな」

 やはり仕返しなんて嘘だ。

 女将は気難しいと言っていたけれど、この人の捻くれた言動の裏には必ず意味がある。むやみに我を押し通すだけの人じゃない。

(気付く人が少ないだけで……)

 本当は情に厚い人なのだということをわたしは知っている。

 両手を温められながら自然と右肩をもたれる格好になってどぎまぎしていると、グレーの羽織で背中を包み込まれてますます全身が火照った。

「……寒くないか」

 左耳に落とされる淡い問い。長い腕を腰にまわされたら、はいと言って頷くのが精一杯になる。

 心臓が壊れそうなのはわたしだけだろうか。

 有礼さんは……わたしほど緊張していない?

 同棲生活はおおむね穏やかだけれど、恋に不慣れなわたしには時折刺激が強すぎる。

「そうだ夏子、おまえに良いものを見せてやろう」

 

* * *

 

「久々に『目利き』でもさせてもらおうか」

 低く命じた唇は、粟立ったばかりの首筋に落ちた。

「いや、これはどちらかというと『手入れ』だな」

 甘い声。両手はすでに自由になっていたけれど、逆らう気はおきない。

 右胸の先端をとらえるとみせかけた指先が、色付いた周囲をくるりと周回する。肩透かしされたのに、正直な腰は軽く後ろに振れてしまう。

「っぁ……は」

「磨いてやる。脚を開け」

 普段、彼が骨董品を磨く仕草を思い出して体の芯がじんと熱くなる。

「……開けと言っている」

 焦れったそうに乞われたとき、すでにわたしの呼吸は荒くなっていた。はあっ、と熱っぽく吐息しながら導かれるままに脚を開くと、たっぷりのお湯の底で彼の右手が秘所に辿り着いた。

 長い指先が、縦に花弁の丸みをなぞってゆく。

 高価な器のふちの輪郭をそっと愉しむように。

「私が初めて封を解いた、私だけの場所だ。違うか?」

「っい……え」

 違うわけがない。間違いなく彼のために開かれた処女だ。

「……こんなところまで冷やして、まったくおまえは懲りないな」

 脚の付け根で前後する指先が、隙間から花芯の先に触れる。敏感なその核を弾かれるたび、お臍の下あたりがじわじわと疼いてしまう。

「んぁ、……はぁっ……」

「内から温めてやるから力を抜きなさい」

 少しずつ強く指を押し付けて擦られると、芯が花弁の間で潰されながら膨れてゆく気配がした。もっと、と彼を誘う蜜がとろりとその指に絡みはじめる。

 

 

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