人生無駄じゃないことの証明を…。心臓に持病を抱えた医大生少女の成長物語!『ヒポクラテスの卵』/マンガPOP横丁(66)

マンガ

公開日:2021/7/2

ヒポクラテスの卵
『ヒポクラテスの卵』(ススキノ海/白泉社)

 小学生の頃、マンガ家になるのが夢だった。大学ノートに描いた4コママンガを、クラスメイトに見せて楽しませるのが快感だった。しかし、中学に上がると部活で忙しくなったことで描くことがパタンとなくなり、マンガ家の夢はいつの間にか消えていった。そんなマンガとともに好きだったのが電車だ。特に車両のデザインが好きで、自宅から数キロ先の電車の車庫へ行っては車両を眺めたり写真に収めたりと夢中になっていたこともあり、電車を設計するエンジニアになりたいという次なる夢を持っていたはりま。夢を叶えるための大学を決めたうえで高校受験をし、その後、無事理系の大学に通った結果、POPライターになりました…って違う方面に行っちゃった。むしろマンガ方面へ近づいてた!

 このように、自分が思い描き温めていた夢の卵を実現という孵化へたどり着くのは、なかなか希望通りにはいかないものだ。今回紹介する作品『ヒポクラテスの卵』(ススキノ海/白泉社)の主人公はその業界の卵として、さまざまな体験をしながら少しずつ成長していく。舞台は、敷地内に病院が併設された大学の医学部だ。

 晴れて医大生となった小宮あかりは、その小柄な体型に似合わない大きいリュックに1冊1冊が重い教科書をたくさん詰め込んで大学へと出かける。その姿に、母親は少し心配をしていた。というのは、実は彼女の身体はあまり丈夫ではないのだ。心臓に病気があるからだ。過去に何度も手術を経験した彼女は、運動などで負担をかけると突然不整脈が発症し、最悪死に至る可能性があるという。「その時は、仕方ないかな」とあかり本人はある程度覚悟をしていながらも、細心の注意を払いながら生活していた。

advertisement

 大学の授業は、当然簡単な内容ではない。講義ではあまり医学とは直結しないような学科が必修で、しかもハイレベルな内容と、高校の授業とのギャップにあかりは動揺を隠せなかった。さらに医学部の初年度では4人1組で1週間、介護老人保健施設に通い、介護の体験実習がある。そこであかりは要介護者となる人のフォローをするのだが、一筋縄ではいかない試練があかりに迫る。そして授業が終わると、大学病院を利用する患者さんとの交流もあり、命に接する機会は常にそばにある環境だ。これからあかりはさまざまな人と命にまつわる場面に出会っていくことになる。心臓の持病ハンデを抱えながら無事に夢の孵化ができるのか、その成長を描く。

 さて、主人公のあかりが医者を目指すキッカケとなったのは、彼女の病気のサポートに否定的な父親の心ない言葉だった。その言葉は、「いつ止まるかわからない心臓に怯えながら毎日を過ごすそんな人生に何の意味がある?」。実は彼女のいないところで交わされた両親の会話だったのだが、たまたま遠くから聞いてしまったのだ。しかしあかりはこれをむしろ自分が医者になることでたくさんの命を救えば、自分の人生が無駄じゃないことが証明できると超前向きに考えたのだ。そして大学の医学部で医者の卵として学べるところまでに到達した。あかりの母親はさぞ誇らしく思っただろう。

 西洋医学に大きな影響を与えた医学の父・ヒポクラテスの名をタイトルに入れた、医学部の毎日が描かれた本作。とても優しいタッチで、緊張感のある場面やほっこりする場面、あかりのコミカルな「はわわ」な姿の場面など、大変楽しく読める内容になっている。さらに作者のあとがきでは「医学部まんがを描きたかった」とあり、実際に医療系の現場にいた人なのかなと思わせるくらいあかりが体験することや医学部で起きることがかなりリアル描かれていると思うのだが、ホントのところは……? そして、あくまでも大学という舞台なので青春展開ももちろんあり! あかりと最初に出会う牧原くんは、冷静に物事を判断する優等生。あかりは彼の言葉からいろいろと考え自らのエネルギーにしていく。そんな彼の医者を目指す姿はとてもアツいモノがあるので注目だ。

 ハンデを背負いながら医者を目指すあかりは未来に“あかり”を灯すことができるか、その成長を温かく見届けていただきたい。あかりちゃん、その強い意志で夢を実現させてくれ、応援してるぞ!

マンガPOP横丁

文・手書きPOP=はりまりょう

あわせて読みたい