君の六月は凍る
君の六月は凍る / 感想・レビュー
シャコタンブルー
君の六月は凍った。それを知り30年ぶりに君の事を懐かしく思い出す。映画「スタンドバイミー」を彷彿させる意味深な始まりから惹かれていく。中学生だった時に出会った君との思い出それは愛であり嫉妬であり、あらゆる感情を剥き出しにしたナイフのような鋭さと敏感さだ。多感で内省的で素直な気持ちを吐露できないもどかしさ。その感覚が巧みな表現により静かに浸透してくる。一枚のシャツの匂いから導き出される真相それは闇の迷路のようでもあった。30年間凍っていた心が溶けていく叫び声。それがいつまでも余韻のように響いてくる傑作だ。
2023/07/22
konoha
こんなに静かな文章を書かれるんだと驚いた。表題作はわたしと君、兄弟の性別や年齢、場所もわからない。わたしの語りになぜか惹きつけられる。自伝的小説かとも思ったが、瑞々しく不思議な味わい。タイトルの意味がわかった時のヒリヒリ感がたまらない。「ベイビー、イッツ・お東京さま」は東京で暮らす女性の生き様が楽しくも切ない。松屋での1人ごはんがリアル。チェス納豆と豚ローズのやりとり最高。現場仕事でヘトヘトで同人活動が生きがいで底辺にいるようなアラサー女子だけど、他人とは思えない。個性の異なる2編とも素晴らしかった。
2023/06/27
ひさか
小説トリッパー2022年冬季号君の六月は凍る、2020年春季号ベイビー,イッツ・お東京さまの2編を2023年6月朝日新聞出版から刊行。六月は凍るのラストで明らかになる事実は唐突。タイトルがアイデアの源流そのものの話のようで、納得できない思いが残る。その点、ベイビー,イッツ・お東京さまの展開は緊張感があり、秀逸で、インパクトがある。こちらが好み。
2023/09/27
よっち
三十年前に別れたままの君の凍死体が発見され、街での出来事や君との思い出が甦ってゆく表題作と貧困・警備員オタク女生活の半私小説を収録した作品集。鶏小屋の前で会った二人。初めて訪ねた家で出会ったZの存在。ある日連れて帰った学校の鶏小屋で生まれたばかりの鶏の子供。そしてある日養鶏場で発生した鶏の病気。名前をあえて書かないことで性別のニュアンスを削ぎ落としながら描かれる灰色な故郷での嫉妬や裏切りを読むと、性別はあまり関係ないんだな…としみじみ思いましたが、東京で暮らす女性の平凡でリアルな生き様もまた印象的でした。
2023/07/05
tetsubun1000mg
筆者の前作「ババヤガの夜」のスーパーバイオレンスで、想像の遥か上を行くストーリーのイメージが強かったので、全く違った作品になっていたのに驚き。 芥川賞作品のように進行していき前半は何の事かよくわからない。 段々と設定が明らかになってくるのだが、終盤には驚きの結末が待っている。 まるで全然別の作家が書いているような印象だが、引き出しが多いのだろうね。 なんだかホラー作品を読んだような読後感でした。
2023/07/08
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