「ゾンビものは、純粋に人間ドラマを楽しめるコンテンツ」東山彰良×折輝真透、新刊発売スペシャル対談

文芸・カルチャー

2019/6/22

 2015年、『流』(講談社)で第153回直木三十五賞を受賞した作家・東山彰良さん。2017年には『僕が殺した人と僕を殺した人』(文藝春秋)では、第34回織田作之助賞、第69回読売文学賞、第3回渡辺淳一文学賞をトリプル受賞し、作家としての地位を築いた。そんな東山さんがライトノベルに挑戦したという。それが6月19日(水)に発売される『DEVIL’S DOOR』(集英社)だ。

 本作は人の陰に「悪魔」が潜む近未来を舞台とした、アクション小説である。主人公・ユマは、聖書型の悪魔・アグリとともに「悪魔祓い」を生業とする人型AI。彼らはマニピュレイテッドと呼ばれ、人類のために行動している一方で、それをよしとしない人々からの迫害も受けている。そんな混沌とした世界で彼らが悪魔を狩る理由はひとつ。「魂」を得るため。はたして、ユマとアグリは魂を手にすることができるのだろうか。悪魔ものは初めてという東山さんの新境地も楽しめる一作だ。

 そして、この『DEVIL’S DOOR』と同日に発売されるのが『マーチング・ウィズ・ゾンビーズ ぼくたちの腐りきった青春に』(集英社)。こちらは第4回ジャンプホラー小説大賞で金賞に輝いた、折輝真透さんのデビュー作だ。

 描かれるのは、ゾンビの存在が一般的に認知されている世界。「ゾンビ化現象」はステージごとにわけられ、ステージ5に至った者は「安楽死する権利」が得られるという。このようにゾンビが管理されている世界において、主人公・藤堂もまた、ひょんなことからゾンビウィルスに感染してしまうことに。モラトリアムな日々のなか、「死」と向き合うことになってしまった藤堂は、残り僅かな日々をどう過ごすのか。ゾンビ化を通して青春を真っ向から描ききった、堂々たるデビュー作である。

 文芸界をけん引する直木賞作家と、デビューしたての新人作家。奇しくも同日、悪魔とゾンビというホラージャンル小説を発表するという不思議な縁のあるふたりに、今回は作品作りや悪魔やゾンビの魅力を語っていただくことに。舞台は新宿にあるホラーレストラン「監獄レストラン ザ・ロックアップ」。おどろおどろしい雰囲気で、ホラーについて語るにはぴったり……と思いきや、ノリのいいふたりはゾンビメイクまでしてくれるという。どこまでもホラーにまみれた対談、いよいよスタート!

■人間は本能的にホラーコンテンツを求めてしまう

――まずは執筆のきっかけから教えてください。

東山彰良さん(以下、東山):キーワードは「魂」なんです。AIって人間に近づけば近づくほど魂の存在が問題になっていって、同時に、悪魔も人と取り引きする際には魂を抜き取ってしまう。このAIと悪魔がバディを組んだら、魂とはどういうものなのかという答えが見つけられるんじゃないかと考えたのが、物語の着想ですね。

折輝真透さん(以下、折輝):悪魔が題材の小説は初めてですか?

東山:そうですね。でも、もともと悪魔というものに魅力を感じていて。僕は、ブルースが好きでよく聴くんですけど、ロバート・ジョンソンというブルースマンがいるんです。彼はギター技術のために悪魔と取り引きした人物だと言われていて、実際、毒を盛られるというひどい死に方をしているんですね。そんな事実を知ってから、悪魔に魅力を感じるようになって、いつか書いてみたいな、と。

折輝:書いてみて、いかがでしたか?

東山:いやぁ、書きやすかったですよ! ライトノベルということもあって、アクションも盛り込んだんですけど、楽しかったですね。そもそもオリジナルのライトノベルを書いてみたいという気持ちもあって、でも、なかなかアイデアがまとまらなかったんです。ただ、編集者と飲みながら話していて、悪魔と魂、そしてAIっていうカードが出揃ったときに「これだ!」と。そこからは1カ月で書き上げました。

――折輝さんの執筆のきっかけも教えてください。

折輝:最初はガンになってしまった主人公の物語として書いていたんです。余命幾ばくもない主人公が最後の思い出作りに奔走するんだけど、誰にもかまってもらえないというストーリーで。

東山:それがどうしてガンからゾンビになったんですか?

折輝:応募先を探していたときにジャンプホラー小説大賞を見つけて、ホラーといえばゾンビだろう……と(笑)。

――折輝さんが受賞されたジャンプホラー小説大賞には、毎回、さまざまなホラー作品が集まっていますが、人はなぜホラーというジャンルに魅了されるんでしょうか。

東山:子どもの頃って、誰にも教わらなくても暗闇が怖かったり、ひとりで寝ているとベッドの下に誰かいるんじゃないかと不安になったりしますよね。そんな風に恐怖というものは、人間の根源的な感情としてみんなに備わっているんだと思うんです。だからこそ、人はそれを物語に求めてしまうのかなって。

折輝:メンタリストのDaiGoさんも仰っていたんですけど、本能的なものは脳みその扁桃体が命令を下していて、人間はその扁桃体に支配されているらしいんです。でも、普段は理性的に生きている。だから、本能に訴えかけてくるような物語に触れると、一気にのめり込んじゃうのかなと思います。

東山:なるほど~。言われてみればそうかもしれないですね。脳みそが求めているのかもしれない。

■ゾンビものは極限状態の人間ドラマを描けるモチーフ

――おふたりはホラー作品がお好きですか?

折輝:ホラーは好きなんですけど、カテゴリーで言うと、やはりホラー映画。一番好きなのはジェームズ・ワン監督の作品です。

東山:『ソウ』とか『死霊館』を撮られた監督ですね。

折輝:『死霊館』の演出は神がかっていて……。シーツが風に舞ってしまうくだりからの一連の流れは興奮するほどの完成度なんですよ!

東山:へぇ~! 今度観てみよう。僕はホラーのなかで言うと、ゾンビものが大好きなんです。怖いけど、楽しいんですよね。

折輝:どんなところがですか?

東山:もしもゾンビが襲ってきたらどうしよう……って想像できるのが楽しい!

――そんなゾンビものがエンターテインメントの世界で廃れない理由はなんだと思いますか?

東山:最初に登場したゾンビ映画は「ホワイトゾンビ」というタイトルで、ゾンビは仮面ライダーに登場するショッカーみたいな扱いだったんです。悪い魔術師に操られているんだけど、そいつを倒せばゾンビもバタバタ倒れていって。でも、ジョージ・A・ロメロ以降、それが「モダンゾンビ」と呼ばれる時代になって、ゾンビという大災害が訪れたなかでの人間ドラマが描かれるようになった。愛する人がゾンビになったとして、その頭を銃でぶち抜けるのか。そういう極限の問いかけを突きつけてくるんです。

 要するに僕らは極限状態の人間ドラマを求めているんですね。だから、極限状態を作り上げるための災害は細菌感染とか核戦争でもいいわけです。ただ、それだとメッセージ性も出てしまう。環境問題とか反原発だとか。でも、それらに比べてゾンビはフィクション性が強いので、純粋に人間ドラマを楽しめるんです。これがゾンビものが廃れない理由でしょうね。

折輝:仰る通りです。

東山:だけど、そのモダンゾンビの時代もそろそろ一段落した気がしていて。この先、ゾンビファンを満足させるためには、また新たな設定の物語を生み出していくしかないのかな、と。

――そこで登場したのが折輝さんの『マーチング・ウィズ・ゾンビーズ ぼくたちの腐りきった青春に』です。

折輝:ゾンビが社会制度に組み込まれていて、安楽死を選択するためには役所にハンコをもらいに行かなくちゃいけないというようなエピソードも盛り込んだんです。

東山:それは新しいですね! 地球単位でゾンビからの生存戦略を練るストーリーは出尽くしてしまった感があるから、今度は身近なエピソードに焦点をあてた作品が求められてくるかもしれない。

■小説のテーマは、読者は見つけてくれるもの

(ここで、モンスターに扮する「監獄レストラン ザ・ロックアップ」のスタッフさんたちが襲来!)

折輝:おおお……!

東山:『ヘル・レイザー』のピンヘッドだ! こえぇーーーー!

(モンスター襲来のドッキリを堪能したふたりは、ご機嫌で記念撮影も)

――いきなりのサプライズに驚きましたね!

東山:いやぁ~、楽しいですね!

折輝:こういうホラーをモチーフにしたお店があるのも、人間が恐怖を本能的に求めてしまうからなんでしょうね……。

――さて、せっかくの機会なので、折輝さんが先輩作家の東山さんに、作家としての悩みを相談してみましょうか。

折輝:いろいろあるんですけど……。作家になって初めて経験したことでひとつ。校正作業のときに、ゲラに鉛筆書きでいろんな指摘をされたんですけど、それって校閲さんが「こいつ、あんまり実力がないな」って判断しているからなんでしょうか?

東山:いやいやいや! それは考えすぎです! 校閲者にもいろんなタイプがいて、しっかり細かく見てくれる人に当たったんだと思いますよ。僕もすごく細かく指摘されることもありますし。

折輝:それなら安心しました……(笑)。

――東山さんから、折輝さんに今後の作家人生へのアドバイスなどはありませんか?

東山:よく、「作品のテーマは?」とか訊かれたりするんですけど、それは気にしなくても大丈夫です。スティーヴン・キングが「テーマというものは、作家の死後、後の人たちが遺された作品をすべて読み、そこから拾い上げるものだ」みたいなことを言っています。だから、テーマについて悩むよりも、書きたいシーンを矛盾なくつなぎあわせていくほうが大切なんです。そこにテーマらしきものがあれば、読者が見つけてくれる。僕らはただ面白いものを生み出したいという気持ちさえあれば、それで大丈夫。

折輝:なるほど。非常に勉強になります。

東山:読者の方にもまずは楽しんでもらうのが一番。作者からのメッセージを探りながら読むのではなく、純粋に作品の世界観を楽しんでもらいたいですね。

折輝:それは同感です。とにかく楽しんでいただければ最高ですね。

取材・構成=五十嵐 大 写真=内海裕之
店舗協力=監獄レストラン ザ・ロックアップTOKYO