「子どもの命か母親の命か…」極限状態の災害医療の現場とは——号泣必至の医療漫画まとめ

マンガ

更新日:2018/12/21

 感動できない、泣けない医療漫画などあるだろうか。おそらく、ないと筆者は思っている。医療が扱う「命」は誰しもが共感できる根源的なテーマなのだ。本稿ではそんな医療漫画の中でも特に「泣ける」6作品をセレクトしてみた。

 超メジャー作品はもちろん、知られざる現場の熱い医師たちがおりなす感動ドラマ、安らかな死の迎え方を描いたノンフィクションなども紹介する。いずれも今読んでいるあなたが、現実の医療で経験するかもしれないリアルな物語だ。

■泣けるというより号泣必至! 感動の産科医療漫画

advertisement

 泣ける医療漫画ではずせないのはやはり『コウノドリ』(鈴ノ木ユウ/講談社)だ。産科医療はけがや病気を治すわけではない。もし「何もなければ」通常の出産に産科医は必要ない。だが「何かは起こりうる」。主人公、鴻鳥サクラの勤務する産院では、当たり前のように出産は命の危険と隣り合わせだ。時には小さな命が助からないことも…。

 一切安心などできないはりつめた現場で、母体と小さな命が無事であるたび、読者は感動と安堵の涙を流すだろう。そして命が助からない状況、妊娠出産周りのひどい現実が描かれれば、やりきれない悲しみに肩を震わせてしまうかもしれない。私もそのひとりで、本作のエピソードの細かい描写に、子どもが生まれた数年前を思い出してぐっときてしまう…。未読という方はぜひ読んでもらいたい。

■厳しいリアルの中の「深い感動」に揺さぶられる

 医療のヘビーな現実を描いた『ブラックジャックによろしく』(佐藤秀峰/講談社)は考えさせられる医療漫画であり、泣ける感動ヒューマンドラマである。外科、産科、精神科、救急医療などの現場を主人公の研修医、斉藤英二郎が経験。そこでは延命医療、不妊治療、未熟児の出産、余命宣告、緩和ケア、精神科医療といった厳しい現実が描かれる。

『ブラよろ』の泣けるポイントは簡単に「感動できる」では言い表せない深さがある。ひょっとすると人によっては重すぎて泣けない人がいるかもしれない。たとえば、がん治療編の、手を尽くしても助からないやりきれない状況。そこからの患者と家族との会話。さらに精神科編のメインキャラクター、早川と小沢のラストは、救いはない絶望の中での一筋の光だ。噛みしめるようにじっくりと読んで、色々と感じてもらいたい作品だ。

■永遠のお別れも笑顔で…「看取り」の物語

 内容は「死のための医療」である、と書くと泣けるどころか辛すぎる感じだが、本作『看取りのお医者さん』(CBCラジオ:原案、ひぐらしカンナ:漫画/KADOKAWA・メディアファクトリー)は幸せなお別れを描いたコミックエッセイである。

 終末期患者の願いを叶えるため在宅医療に取り組んでいる女性医師、杉本由佳が叶えるのは、余命を告げられた患者の「家で暮らしたい」という願い。闘病で忘れかけていた家族との日常だ。「我が家で最期を迎えたい」。最後はそう願う彼らと家族を由佳は支える。原案は実話を基にしたラジオドラマだ。

 私事ではあるが、自宅で数年意識のない状態で寝たきりだった祖母が亡くなった時のことを、本作で思い出した。自宅で看取った家族は、別れに際しても「旅立つ者のためにやりきった」と思え、悲しみよりも不思議な満足感に包まれていた。永遠の別れというゴールは見えている。その中で家族など周囲も含めてどれだけ安らかに幸せに生きられるか。本作で「看取り」について考えてみた時、現実では明るい別れを選択できるかもしれない。

■命と希望、愛をつなぐ男が起こす奇跡とは

『神様のカルテ』(石川サブロウ:著、夏川草介:原作/小学館)の舞台は長野県松本市の本庄病院。ここは地域医療の中核を担っていた。そこで寝る間も休日もなく診察と治療に励んでいるのが、主人公の内科医、栗原一止。一止が夜間の救急外来で担当になると、患者が増えることから「引きの栗原」と病院内では呼ばれている。

 本庄病院は24時間365日などという看板を出しているせいで、一止は3日寝ないことなど日常茶飯事。自分が専門でない範囲の診療まで行うのも普通。描かれている深刻な医師不足、地域医療の崩壊…。この極限状態で、患者のために命がけで働く一止。彼は生と死を見つめ、人の寿命に立ち向かい、もちろん救えないこともある。この現実味、喪失感、泣けてしまうポイントは数多くある。

 夏川氏の原作小説は言わずと知れたベストセラー。そして映画化もされ「泣ける」と評判に。このコミカライズ『神様のカルテ』(本多夏巳:作画、後藤法子:脚本/小学館)も存在する。少女漫画テイストがお好みの方はこちらもおすすめだ。

■時には命を「選択」する災害医療のスペシャリストたち

 瓦礫の下の医療を行う災害派遣チーム(DMAT)の奮闘を描いたのが『Dr.DMAT~瓦礫の下のヒポクラテス~』(髙野 洋:原作、菊地昭夫:漫画/集英社)である。DMATの使命は、被災した人々の「命をつなぐ」こと。災害現場など十分な医療環境の調えられていない中で、一刻を争う人命救助を行う。主人公は、血の苦手な内科医・八雲響。彼が災害現場の最前線で奮闘するDMATに放り込まれ、災害医療のスペシャリストとして成長していく。

 とにかく作品の持つ「圧」がすごい。緊張感のはりつめた現場の空気、DMAT隊員の心理がこれでもかと描かれる。響たちは極限状態の中で、生死の順番をつけていく。生き残った母親に「なぜ子どもを助けず自分を救ったのか」と責められることもある。ひとりを救えたから良かった、ではない、そんな「やりきれないが存在する現実」も本作のテーマのひとつだろう。

 日本に住む誰もが、地震、津波、台風、さまざまな災害とは無縁ではいられない。だからこそ誰が読んでも、命の重さを認識できる、感動できるだろう物語だ。

■医療従事者たちは懸命に回復しようとする患者の「サポーター」!

『パンダのパ リハビリ病院エクササイズ』(河 あきら/双葉社)はリハビリテーション病院を舞台にした医療漫画だ。理学療法士の岡辺実久や、作業療法士の大野かずみたちが、献身的な訓練に取り組み、患者を回復させるストーリーだ。

 皆さんはこのリハビリテーションとは何かご存じだろうか。簡単に書くと「けがや病気のために、能力や機能が低下した状態から回復させ、日常生活を行えるようにする過程」である。理学療法士や作業療法士は、患者たちのために回復計画を立てて、それに沿って本人の回復をサポートする。直接生死に関わる医療現場ではないが、人が再び立ち上がろうとするドラマは、涙なくしては読めない。

 本作にはくも膜下出血で入院した経験がある著者、河氏がキャラクターとして登場する。この実際にあった入院時の経験がリアルに描かれているのだ。実は筆者も、半年ほどリハビリテーション外来に通ったことがある。私の周りには老人も、スポーツ障害と思われる若者も、そして事情はわからないがまだ小さい子どももいた。そこでは誰もが皆回復するために必死に努力していた。そして患者を献身的に支える理学療法士の方の誠実さが印象に残っている。ちなみにタイトルの「パンダのパ」とは、患者の噛む力や飲み込む力を回復させる体操の発声である。

 おそらくほとんどの人は医療に救われている。永遠の別れを経験している人も多いはずだ。命の誕生、回復、そして別れ…感動と悲劇は常に紙一重であることも皆、知っている。これらの経験則と作品世界がマッチした時、私たちの涙腺は決壊してしまうのだろう。

 やりきれない悲しみ、医師が患者を全力で救う熱量、生命の持つ力強さ。作品を読んでこれらに共感し、涙してほしい。

文=古林恭