江戸時代の子育てネットワークとは?「乳」の重要性とその社会的問題点を探る
『江戸の乳と子ども: いのちをつなぐ(歴史文化ライブラリー)』(沢山美果子/吉川弘文館) できることなら子どもを母乳で育てたいが、事情あってやむなく粉ミルクにしている母親は少なくない。母乳と併用している人もいるだろう。現代では、母乳の代用品が普及しているため、母乳が出なくても子どもを育てられる。
しかし、粉ミルクのような代用品がない江戸時代では、母乳が出ないことは深刻な問題だった。『江戸の乳と子ども: いのちをつなぐ(歴史文化ライブラリー)』(沢山美果子/吉川弘文館)によると、江戸時代の史料には、「母の乳」「人乳」「女の乳」という言葉は出てくるものの、母と乳を直接結び付ける「母乳」という言葉は見られないという。命を繋いでいくために、「乳」でさえあればよかった。そんな事情から、「乳持」という言葉に象徴されるように、乳は交換や売買が可能な“モノ”となっていた。
浮世草子の生みの親である井原西鶴は、自身の作品のいくつかで、乳の重要性と、それがもたらした社会的な問題を描いていると、本書は解説している。
問題の1つめは、乳が出ないという困難に遭ったときに階層差…