SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第18回「おかわり」

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公開日:2022/12/27

 即ち、この意見の基準は「損」ではなく「得」にあると思うのだ。もっと具体的には「自分の損」ではなく「他人の得」にあるのだと思う。

 自分はおかわり出来なかった(しなかった)のに、自分以外がおかわりをしていることが気に入らないと考えるのが妥当だ。「なんで自分じゃない人ばっかり」という心根だろうし、この後に続くのはおそらく「ずるい」という言葉だろう。

 別にいいじゃん。自分がその値段に納得したから注文してるわけだし、そこでおかわりをしないってことはお腹がいっぱいになったということなのでしょう。だとしたらまだもう少し食べたいな、と思っている人が付与された権利を行使することは、自分とは関係なくね? って私は思うのだが。「自分の損」に憤慨しているならそれは然るべきことかもしれないが「他人の得」に憤慨する様は、実にさもしいと私は感じてしまう。

 そして、実は懸念していることがある。そもそも「他人の得」と「自分の損」の分別がついていなかったとしたら。これはなかなかに恐ろしい。

 0の自分と、プラス2になった他人。0の他人と、マイナス2になった自分。共に自分と他人との差は2であるが。実質は大きく違う。しかしこれを同じものと捉えてしまうと物事は根本から捻れると思う。ただやはり、意外とあるのだ、色々な人と顔を合わせると。自分の無と別に与えられた他人の喜びが、さも自分の苦と引き換えに与えられた他人の喜びであるかのように嘆く場面を目にすることが。

 そしてここまで書いていて今さらなのだが、金銭に応じて付与された権利なのだから、おかわりすることを「他人の得」と呼ぶことはどだい少し違うのかもしれない。

 さすれば要するに長々と書いてしまった今回の事案。

「おかわりをする人としない人で同じ値段だということに不公平感がある」は簡潔に「自分が得を出来ないのが嫌です」となるのではないだろうか。

 ここまではっきりと言い切られてしまうのであればもう逆に気持ちがいい。よく言った、と何度も胴上げしてあげる。

 

 おかわりをする者も、しない者も「得」をしなかったこの話。まア強いて「得」した者をあげるとすれば某定食屋さんだけだろう。

 そんなことないと思うよ、ないと思うけど、「おかわりをする人としない人で同じ値段だということに不公平感があるという意見」なんてそもそも誰からも出ていなかった場合、我々は某定食屋さんにまんまと一杯食わされたことになる。おかわりだけに。

<第19回に続く>

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しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催する。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中


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