まつもとあつしの電子書籍最前線Part4(前編)電子本棚『ブクログ』と電子出版『パブー』からみる新しい読書の形

更新日:2018/5/15

いまはあくまで「本」にフォーカスしていく
 
――そういったビジネスモデルを追求しながら、本棚サービスとしてのブクログが、どう育っていくのかをお伺いしたいと思います。ブクログへは、ユーザーからの要望がいろいろ届いてくるというお話がありましたが、サイト上ではBBSのような形でそれを受け付けておられますね。

吉田:はい、「ブクログ談話室」というのを用意しています。
 

「ブクログ談話室」。おすすめの本やiPhoneアプリなどについて質問したり、作品や作家について語り合う掲示板
 
要望は談話室にあがっているものと、こちらからTwitterの口コミを見て回ったり、直接問い合わせフォームから要望が寄せられたり、おおむねその3パターンぐらいですかね。

――なるほど。ブクログにはいくつかのソーシャルな側面もあるのが特徴だと感じています。Twitterなどと連携し、本の登録やレビューの投稿が自動的に投稿されるというのは、ある意味、外のソーシャルを使うという手法だと思います。

一方で、ブクログの中でも、他人の本棚をフォローするという概念が用意されています。それによって、何が生まれているのかというところが、たぶん今使ってらっしゃる方も、イメージつきにくい人も多いかなと思うんですけど。どういったことを狙ってらっしゃいますか?

吉田:実はその部分は「完成」と言えるところまでまだ届いていないんです。3割、4割ぐらいかなと思っているんですが。最近やっとタイムラインの表示というのを、ブクログのマイページで、始めるに至りました。ようやくこれで、フォローする、フォローされたということが、ブクログの中で、情報として表示される場所が、用意できたという状況です。

このタイムラインの中で、いろんな人が書いたレビューや、自分がフォローしている人が本棚に新しいアイテムを登録した、ということが、バーっと流れてくるというようになります。いままでブクログは、本を登録して、そこでおしまいという感じではあったので、次に本を読みおわったり、新しい本を登録するまでは、来ない場所になっていたんですね。

でも、ブクログを本と人が出合う場所に育てていきたいのです。したがって、いま自分が読んでいる本がたとえなくても、ブクログに本を探しに来てもらうような導線というか、行動パターンを作りたいという思いがありました。

そんな中、やはり日常的に情報が更新されていく場所。新しい情報が入ってくるツール・場所に進化させていきたい。その1つとして、「本棚をフォローする仕組み」を用意しています。

将来的には、そこにニュースや新刊情報、あとはイベント情報みたいなもの……そういったものが流れてくるようにしていきたいと考えています。日常的にとりあえず、毎日1回はチェックをして。じゃあ、ここでイベントをやっているから、行ってみようとか。ジュンク堂でサイン会があるんだったら、行ってみようとかですね。そういったものを見つける場所にしたいですね。

そこを目指して、とりあえず現状はフォローした人の行動パターン、アクティビティが、見られる状態になったという段階です。

――そこでも特化されているのは、本にかかわる物事を中心とされるという点ですね。
つい、他のサービスでもやりがちなのが、そこで例えば日記サービスを作りましたとかとか多角化の方向に行きがちかなと思うんですが。

吉田:実際はAmazonからデータを引っ張ってきていますので、本以外にDVDやCD、ゲームなども、並べられます。その気になれば冷蔵庫とか、家電も(笑)。そういう棚として使ってらっしゃる方も、けっこういるにはいるんですね。

――私もそうしてます。

吉田:ただ我々としてはそこまで拡げていくと――ユーザーさんがお使いいただく分には、どういうふうに使っていただいてもかまわないんですけど――サイトをどう打ち出していこうかと考えていくときに、なんでもできますよということになると、特に広告商品として捉えると、なんの場所なのというのが、ぼやけてくるなあというのがあるので。

――媒体としての特色ですね。

吉田:そうですね。なので、本の情報がたくさん集まっている場所、得られる場所というところのブランディングが確立されるまでは、あんまり横展開のことは、考えないほうがいいかなと思ってまして。

――しかし将来的には、CDとかDVDとか、なんでも並べられるので、それこそヴィレッジヴァンガードさんみたいに本が1冊あって、その周りを関連グッズで飾るということも出来るといいですね。先ほどの見せびらかす、じゃないですけれど「集めたぞ」っていうものをディスプレイできるようになると。

吉田:そうですね。ブクログが今、おつきあいいただいている、広告関連でご利用いただいているところでいうと、実は映画関連のところが比較的多くて。つまり、やっぱり映画原作のマンガですとか、小説ですとか、映画化のタイミングで文庫本がたくさん売れるというのは、よくある話なので。また、映画化のタイミングのほうが、プロモーション予算も大きかったり。
 

映画『塔の上のラプンツェル』のプロモーション記事で声優を務めた中川翔子さんの本棚が作られた
 
――確かに。

吉田:したがって、映画は非常に親和性高いなと思っているんですね。プロモーションという意味でも。メディアミックスになっているものもたくさんありますし。アニメ化されて、DVDが出てとか。ゲームになってというところもあるので。そういう横展開というのは、非常にしやすいだろうなとは思っています。

――現状では「状態」設定のところが、あくまで「本」をベースにしているので、例えばDVDを見て「読み終わった」と設定するなど、ちょっとまだ、たぶん整合しないところもありますよね。ただほんとに可能性は拡がっていくんだろうなと実際使っていて感じます。

電子書籍時代のブクログ
 
―ブックフェアでの盛り上がりを見ていると、今年は「電子本棚元年」かなと、勝手に思っています。ブクログはいまのところ、電子書籍そのものは登録できませんが、後で詳しくお聞きするパブーも展開されるなか、電子書籍との連携についてはどんな風に考えていますか?

吉田:現状は、3種類の本棚がある状態になっています。

Amazonをベースにしているブクログ本棚、オリジナル電子書籍「パブー」の本棚、あとはiTunes本棚というアプリを登録できる本棚です。したがってiPhoneアプリつまりアプリ単体の書籍は、いちおう登録はできるんですね。

ただこの先では、たとえスマートフォンやタブレット向けの各種専門、電子書籍ストアと連結をしていって、読者側から見て、どこで買ったか、わからないとか、どこで買えるかわからないとか、そういったことをなるべく無くしたいと思っています。

先行しているということでいうと、BookLive!さんがオープンにいろんなところと連結しましょうと仰っています。本棚というインターフェイスが各社バラバラになっていると、不便だよねという認識は、事業者側・ユーザーからこれから強く出てくるはずです。

ブクログは、「書店機能」は持つつもりはありません。あくまでユーザーさんのレビュー、感想、蔵書管理、読書管理に、特化しておこうと思っているので。どこの書店さんとも、組めると考えています。我々としてはまったくオープンに考えていて、ちょこちょことお話ししているところもあるんですけれども。システムが整備され次第、そこはどんどん増やしたいと考えています。

――実際に利用イメージとして、どういう感じになるんでしょう。書店はやらないということは、購入はそのそれぞれの電子書店でやってもらうという感じですか?

いまは書籍のデータ(書誌情報)をAmazonから引っ張って来ているところを、たとえば他の電子書店のデータベースから引っ張って登録をする、それに対するレビューとか書くんですけど、読むのもやはり、当然そちらのほうのビューワーを使って……。

吉田:そうですね。現状、読む方の「ビューワー」は、タブレットも含めるとかなり複雑な状況です。各プラットフォームごとにバラバラになっていて、ソニーリーダーみたいな専用端末で読むものという、端末と完全にセットになってるストアもあれば、hontoさんみたいに、Androidのところもあって、PCもあってみたいな。書店の中に、PC用の本と、Androidスマートフォン用の本が両方並んでいるようなお店やらいろんなものが混在している状況ですね。

けっこうややこしい状況だとは思うんですね。それもまあ、そのままずっと続くかどうかは、ちょっとよくわからない。ePubですとか、ある程度オープンなフォーマットのほうに収束していけば、基本どの端末でも読めますよねというところに、最終的にはいくんじゃないかなあと、個人的には思っているんですけれども。

少なくとも、現状は本ごとにどの本屋さんで売っていて、どのフォーマットで出ていてというのを、ユーザー側が気にしないといけない状況になっている。それがちゃんとわかる場所というのは、ないとだめなんじゃないかなとは、思っているんですね。

ビジネス的なことでいえば、ブクログが各電子書籍ストアさんに提供できるものとして、既に紙で出ている本の電子版が出される場合、中身としてはほとんど同じものであるはずです。その際、紙の本を読んだ人たちのレビュー・評価というものが、既にブクログには蓄積されている。それを読んで、すぐ買ってもらうという導線が既に出来ています。

たとえばスマートフォンのブクログでレビューを見ていて興味が沸いたら、hontoで買おうとか、BookLive!で買おうとか、とにかくそこから購入への導線が用意されているということが重要だと考えています。それで別に、各種電子書籍サービスのアプリが立ち上がったら読むという形でかまわないんじゃないのかなと。

ブクログは本棚という「ガワ」だけ作りましたよということではなくて、ずいぶんレビューが溜まっているので、それをプラスのメリットとして、ご利用いただくというのが、一番いい、接続の形かなと思っているんです。

レビューが「荒れない」場
 
――あとはレビューを見て回っても、実名ばかりではありませんが、誰が何を書いたかというのが明示されていて、さらにそれを書いた人の趣味嗜好も、本棚によって確認することができる。一般的な書店サイトに比べると、レビューの質が高いというか、荒れてないという印象は受けます。

吉田:そうですね。理由は2つあるかなと思っています。

1つには、自分の本棚というものが、スタート地点にあるので、基本的には好きなものを並べていくという方向になる方が多いんですね。もちろん、好き嫌いを含めて全部並べるというポリシーの方もいらっしゃって。蔵書管理の側面が強くなるとそういうものもあって。おもしろくなかったっていうことを書く人も、もちろんいるんですけれども。

読書管理ということでいうと、わざわざおもしろくなかったことを記録しなくていいというポリシーの方も、けっこういらっしゃるので。そういう人達のボリュームによっては、よかったというレビューが中心に、集まってくるという性格はまず、1つあるかなと思います。

もう1つは、やっぱり継続的に使われているところというのもあると思います。匿名で書き捨てるという使われ方は少ない。匿名ではあっても、一応継続性がある、ある種の人格として書いている部分があるというのがもう1つですね。

Amazonなどたまに見かける、これはもう「買うな」というふうな意図で書かれているレビューというのは、やはりそれは、「本を買う」という場所で言うのが、残念ながら一番効果があるんですね。そういう性質のレビューは、ブクログで書いてもたぶん、あまり効果がない。ブクログにまでやってきてわざわざ、そういうことを書きに来る人は、そんなにいないのかなという面もあると思います。一言で言ってしまうと、読書好きの人が書いている、という感じですかね。

――なるほど。読書好きの人が使って、レビューを書いている。それ自体が、資産となって、電子版の展開をするときにも、生きてくるはずだというわけですね。

吉田:はい。

パブーでやりたいことというのは、あとで出てくる話だと思うんですけど、完全にインディーズの人達、これまで、紙では実現できなかった、そんなコンテンツが出てくる場所というのを考えています。

とはいえパブーでは、現在プロとして活躍されている作家さんが、未公開の原稿や絶版になった書籍をインディーズ作品としてパブーで公開されることもありますし、既刊本の電子版も展開しています。我々は紙の本じゃなくて最初から電子で出したいんだ、というような考えは、まったくありません。これからは紙に加えて電子という新しい手段が増えることで、ひとつの作品がより多くの人の元に届くんじゃないかなと思っているんです。

それぞれ、ブクログでは紙の本、パブーでは電子書籍の、側面支援というか、お手伝いをしていくつもりです。

後編に続く。後編は8月10日(水)に更新いたします。

まつもとあつしの電子書籍最前線」記事一覧
■第1回「ダイヤモンド社の電子書籍作り」(前編)(後編)
■第2回「赤松健が考える電子コミックの未来」(前編)(後編)
■第3回「村上龍が描く電子書籍の未来とは?」(前編)(後編)
■第4回「電子本棚『ブクログ』と電子出版『パブー』からみる新しい読書の形」(前編)(後編)
■第5回「電子出版をゲリラ戦で勝ち抜くアドベンチャー社」(前編)(後編)
■第6回「電子書籍は読書の未来を変える?」(前編)(後編)
■第7回「ソニー”Reader”が本好きに支持される理由」(前編)(後編)
■第8回「ミリオンセラー『スティーブ・ジョブズ』 はこうして生まれた」
■第9回「2011年、電子書籍は進化したのか」