梅雨物語
「梅雨物語」のおすすめレビュー
知らなければよかった真実に絶望する。貴志祐介が贈る、珠玉のホラーミステリ『梅雨物語』
『梅雨物語』(貴志祐介/KADOKAWA)
じっとりとした恐怖が、全身にまとわりついている。降り止まない長雨の中に閉じ込められたような、絶望感。ジメジメと蒸し暑いはずなのに、ゾクゾクと寒気すら感じる。この本を読み終えてからしばらく経った今も、そんな陰鬱を引きずっている。おそらくそれはどうやっても拭い去ることはできないだろう。
そう感じさせられた本とは、『梅雨物語』(貴志祐介/KADOKAWA)。『悪の教典』(文藝春秋)や『新世界より』(講談社)、『天使の囀り』(KADOKAWA)などの作品で知られる、貴志祐介氏が描くオムニバスホラーだ。一度読み始めれば、すぐにこの本の虜になってしまう。一体何度この本は私たちを震え上がらせてくるのだろう。ホラーとミステリの両ジャンルでベストセラー作品を手掛けてきた貴志氏だからこそ描ける世界に、きっと誰もが圧倒させられてしまうだろう。
この本には、3つの中編が収められているが、特に最初に収められた「皐月闇」は読む者に強い衝撃を与えるに違いない。命を絶った青年が残したという一冊の句集「皐月闇」。元教師の俳人・作田は、元…
2023/8/9
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梅雨物語 / 感想・レビュー
starbro
貴志 祐介は、新作をコンスタントに読んでいる作家です。半年前に読んだ『秋雨物語』に続く第二弾は、ホラー&ミステリ中編集でした。オススメは「皐月闇」です。 https://www.kadokawa.co.jp/topics/10134/
2023/07/27
yukaring
妖しい世界観に恍惚とするホラーミステリ3編。帯にも書かれているように、真相はうっすら予測がつく→なのにその真相に向かってほしくない→だけど本当にそこに向かうのかを知りたい、という怖いもの見たさから読む手が止まらない1冊。一番面白かったのは『皐月闇』命を絶った青年が残した俳句の句集。そこに記された13句を解釈していくとおぼろ気に見えてくる隠された秘密。俳句の裏の意味を読み解く過程がとても興味深い。キノコが突然家を埋め尽くす怪異『くさびら』などどれもねっとりとした闇にからめ捕られるようなそんな読後感だった。
2023/08/16
yasunon
抜粋:P.143 ただ、深い悲しみと底しれぬ喪失感のような感情だけが、残像のように漂っている。 所感:3つの短編集。前作同様、瞬間的な恐怖ではなく、真相に迫るにつれて、じわりじわりと息苦しくなってくる。読後感もモヤッとしている。「皐月闇」と「ぼくとう奇譚」では記憶の曖昧さ、夢なのか現実なのかに恐怖を覚えた。「くさびら」ではストーリーの面白さはさることながら、著者のキノコへのマニアックな蘊蓄に驚く。キノコとか虫とか好きだよね。あれ?このキャラなんか知ってる!となる、貴志先生作品のファンサービス?が嬉しい。
2023/12/10
itica
何かは分からないが、この後、得体の知れないものが待ち受けているようで落ち着かず、かと言って知りたい欲望は高まる一方。そんな心境になる3編。エアコンの効いた室内にもかかわらず、じっとりと貼り付くような気配が息苦しかった。「皐月闇」は俳句の真相におののき、「ぼくとう奇譚」の悪夢に冷や汗を流し、「くさびら」のきのこ群に眩暈がしそうだった。でも満足だ。
2023/08/18
シャコタンブルー
3話の中編集だが「皐月闇」が圧倒的に面白かった。亡き兄が残した一冊の句集。その妹がそれぞれの俳句に秘められた謎を解くために恩師を訪ねる。二人で句集が示す情景やその時の行動を解き明かしながら次第に危険な領域に入っていく。恩師はやがて真実に近づくにつれ得体の知れない恐怖に怯えていく。対照的に素直だった妹の口調や態度が徐々に豹変していく様子は不気味でもあった。二人の過去に何があったのだろう。何処までが真実でどれが嘘だろう。二転三転しながら闇に隠れた真実が炙り出される展開は鮮やかだった。
2023/08/07
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