本日発表! 「本屋大賞2023」を受賞するのはどの作品? ノミネート10作総ざらい

文芸・カルチャー

公開日:2023/4/12

 いよいよ本日4月12日(水)、「本屋大賞2023」が発表される。全国の書店員が選ぶ「いま一番売りたい本」を決めるこの賞のノミネート作は今年も個性豊か。ハラハラドキドキのミステリーがあれば、胸を締め付けるラブストーリーも、人を感動に導く希望の物語もある。一体、どの作品が受賞するのか。大賞発表前にノミネート10作をおさらいしよう。

『川のほとりに立つ者は』(寺地はるな/双葉社)

『川のほとりに立つ者は』(寺地はるな/双葉社)

 自分が当たり前にできることができない人がいる。その人を「ダメな奴だ」と切り捨てるのは簡単だ。けれどその振る舞いは、きっといつか、自分も誰かに切り捨てられる未来に繋がっていく。そうならないためには何ができるのか、『川のほとりに立つ者は』(寺地はるな/双葉社)は切々と訴えかけてくる。

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 不可解な怪我を負って意識不明となった恋人と、彼が抱えていた秘密。それを知れば知るほどに、私たちは目の前の相手に向き合い続けることでしか、手を取り合うことはできないのだと実感させられる。他者と関わることの痛みを描きながらも、希望をも感じさせてくれる物語。


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『君のクイズ』(小川哲/朝日新聞出版)

『君のクイズ』(小川哲/朝日新聞出版)

 クイズとは、一切の無駄のない純粋な“競技”だ。『君のクイズ』(小川哲/朝日新聞出版)を読み終えるとそれまでのクイズ観が一変する。

 生放送のクイズ番組の決勝戦。クイズプレーヤー・三島は、対戦相手・本庄が問題が読み上げられる前に正答できたことをいぶかしむ。これは不正なのか? それともクイズを極めたものが得られる魔法なのか?

 リアルなクイズ描写はもちろんのこと、クイズという競技からにじみ出る人間味こそが本書の醍醐味。クイズという競技の小説にこれほど人間味を内包させた結末に驚きを禁じ得ない。


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『宙ごはん』(町田そのこ/小学館)

『宙ごはん』(町田そのこ/小学館)

 美味しいごはんは、やせ細った心に栄養を与える。『宙ごはん』(町田そのこ/小学館)は、あたたかい料理と、母娘の姿を描き出す物語だ。

 小学校に上がる時、「産みの母」と暮らし始めた少女・宙は、母親らしくないその姿に強いショックを受ける。そんな宙に手を差し伸べたのは、商店街のビストロで働く「やっちゃん」。彼は、宙のために毎日とびきり美味しいごはんを用意し、話し相手にもなってくれて……。

 大切に何度も読み返したくなるようなこの栄養満点の物語は、きっとあなたの心も満たしてくれることだろう。


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『月の立つ林で』(青山美智子/ポプラ社)

『月の立つ林で』(青山美智子/ポプラ社)

 誰かに助けられた人が、気付かぬうちにまた別の誰かを救っている。きっとこの世界はそういう優しい連鎖でできている。『月の立つ林で』(青山美智子/ポプラ社)は、そんな「見えないつながり」を描く連作短編だ。

 本作のモチーフは「月」と「ポッドキャスト」。うまくいかない毎日を過ごす市井の人たちは、タケトリ・オキナという男のポッドキャスト『ツキない話』の月に関する語りに心寄せていく。そんな彼らの間で巻き起こる小さな奇跡。それを目の当たりにした時、あなたは背中を押されたような前向きな気持ちにさせられるに違いない。


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『汝、星のごとく』(凪良ゆう/講談社)

『汝、星のごとく』(凪良ゆう/講談社)

 たとえ、癒えない傷を負う結果になったとしても、自分が生きたいと願う人生を選ぶべきだ。それが自分を幸せにする唯一の手段だということを教えてくれるのが、『汝、星のごとく』(凪良ゆう/講談社)だ。

 風光明媚な瀬戸内の島。高校時代に恋人同士になった暁海と櫂。卒業後、次第に広がるふたりの間の溝……。途方もない痛みを抱えながら、それでも自分の人生をつかもうとあがくふたりの姿は、きっと、不器用で正しく生きられない私たちにとって、新たな救いとなるに違いない。


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『方舟』(夕木春央/講談社)

『方舟』(夕木春央/講談社)

“ネタバレ厳禁”な驚きの展開が話題のミステリーが『方舟』(夕木春央/講談社)だ。

 地震によって謎の地下建築物“方舟”に閉じ込められた10人。そこで巻き起こる殺人。だれか一人を犠牲にすれば脱出できるのだから、その犯人を生贄としたいところだ。

 倫理観を揺さぶってくる残酷なストーリーはたまらなくスリリング。そして犯人はなぜ全員が死ぬかもしれないという状況で殺人を犯したのか、その謎を解く推理も見もの。読んだ人の誰もが呆然としたであろう超弩級の衝撃をぜひとも味わってほしい。



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『#真相をお話しします』(結城真一郎/新潮社)

『#真相をお話しします』(結城真一郎/新潮社)

 YouTube、マッチングアプリ、リモート飲み会、精子提供…。『#真相をお話しします』(結城真一郎/新潮社)は、令和らしいトピックと「どんでん返し」ミステリーとを見事に掛け合わせた短編集だ。

 各短編を読み進めていくと、なんとなく違和感を覚える。何かがおかしい。だけれども、何か分からない。胸のざわつきを感じながら、ページをめくれば、突然頭をガツンと殴られたような衝撃の展開。同時に、その恐ろしさにゾクゾクし背筋が凍りつく。

 あなたは作者の仕掛けた罠に気づくことができるのだろうか。これこそが、令和という時代の新しいミステリーだ。


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『爆弾』(呉勝浩/講談社)

『爆弾』(呉勝浩/講談社)

 果たして「自分の中に“爆弾魔”はいない」と言い切れるだろうか。『爆弾』(呉勝浩/講談社)は人の内にある不穏な本性を、じわじわと炙り出してくる。

 冴えない中年男・スズキタゴサクが引き起こす無差別爆破テロ。「出来損ないは、それ相応の人生を歩むべき」「命は平等って、ほんとうですか?」「自分勝手こそ、人間の真実」…。スズキの妄言とテロ行為は、読者の導火線にも火をつけてくる。失うもののない「無敵の人」による事件が起き、差別的な言動を恥じることもない人が増えた今こそ、読んでおきたい1冊だ。


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『光のとこにいてね』(一穂 ミチ/文藝春秋)

『光のとこにいてね』(一穂 ミチ/文藝春秋)

 人には、タイミングというものがあって、どんなに相手を愛おしく思っていても、その人から遠ざかってしまうということは、往々にしてある。大切なのは、「今なら」という時が訪れたとき、行動に移せるかどうか。『光のとこにいてね』(一穂ミチ/文藝春秋)を読むと、そんなことを思わされる。

 医者の家に生まれた結珠(ゆず)とシングルマザーの母親と暮らす果遠(かのん)。正反対のようでどこか似ている2人は、運命に導かれ、運命に引き裂かれていく。彼女たちの幸せを祈るように追い続ければ、読者の心にも、クライマックスにはきっと優しい光が降り注ぐに違いない。


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『ラブカは静かに弓を持つ』(安壇 美緒/集英社)

『ラブカは静かに弓を持つ』(安壇 美緒/集英社)

 マンツーマンの、週1回30分のレッスン。そんな短い時間を共有するだけだとしても、音楽教室の講師と生徒の間には、見えない絆が紡がれていく。『ラブカは静かに弓を持つ』(集英社)は、そんな音楽教室での日々を描いた傑作だ。

 楽器に触れることの喜び、上達に向けた情熱が描き出されているのはもちろんのこと、本作はそれだけではない。音楽著作権を管理する団体で働く男が著作権侵害している証拠をつかむために、音楽教室へと潜入する——そんなあらすじの“スパイ”ד音楽”小説は、音楽経験があろうとなかろうと、多くの人を揺り動かすに違いない。


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 今年はどの作品が「本屋大賞」に輝くのだろうか。さすがは、全国の書店員の方々がオススメする作品。ノミネート作はどの作品が受賞してもおかしくない面白さだ。毎年、受賞作はもちろんのこと、ノミネート作品もその多くが映像化されることでも話題の「本屋大賞」。未読の作品があれば、ぜひとも手にとってほしい。

文=アサトーミナミ

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