自分のことを客観視できる人になりたい…。そう思うあなたに、芥川龍之介5選

文芸・カルチャー

公開日:2018/10/24

 間違いなく日本文学史上最も優れた作家のひとりである芥川龍之介。「芥川賞」の注目度が高いこともあり、あまり純文学を読まない人でもその名前は知っていることだろう。

「芥川賞」は数々の名作と大作家を輩出してきたが、肝心の芥川龍之介の小説はどうなのか…。これが本当におもしろい。芥川龍之介の作品は全体的に短編が多いのだが、その中には繊細で緻密な人間の心理描写が詰め込まれている。古典的な良さのみならず、今なお支持され続けるだけの質の高さを誇る彼の名作は数知れず。本稿ではその中から、これだけは外せない選りすぐりの5作品をご紹介したい。

■生死をかけた極限状態での道徳観とは

 舞台は飢饉に見舞われた平安京。ひとりの飢えた男が、死人の髪をむしり取る老婆に遭遇する物語。極限状態で生き延びなければならないとき、我々の道徳観はどうなるのか。そうした人間描写が高く評価された作品。芥川龍之介の代表作として、教科書でもしばしば取り上げられる。

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■私が馬鹿にされるのは、本当にコンプレックスのせい?

 とにかく鼻が長い、というコンプレックスを抱えたお坊さんの話。試行錯誤の末、嫌で嫌で仕方がなかった鼻が短くなった。もう鼻のことで笑われることはなくなるだろう…と大喜び。しかし、どうやら周りの様子がおかしい。人間が他人を蔑むときの心理が細部まで丁寧に描写された作品。

■古典からヒントを得た芸術至上主義の物語

「これぞ芸術家」といった性格の絵師の、芸術に魂を傾ける様子、そして彼を襲った悲劇を鮮明に描いた作品。愛する娘が焼かれる様子を見せられ、それを屏風絵の題材にしてしまうストーリーは、宇治拾遺物語の「絵仏師良秀」がベースになっている。本書で描かれる芸術至上主義の姿勢は、芥川本人の生き様に通ずるものがある。

■利他のこころの難しさ

 お釈迦様の情けにより、地獄から抜け出す千載一遇のチャンスを得た男の物語。頼りない蜘蛛の糸を一生懸命に上るが、「他人を見捨てて、自分ひとりだけ助かればいい」と考えたことにより再び地獄に落ちてしまう。児童向けとして書かれた作品であるため、幼少期に聞かされた人も多いのではないだろうか。

■悲惨な殺人事件の犯人は誰? 主観と客観の乖離

 男が藪の中で殺された。その事件の真相を探るため行われた尋問を並べた物語。容疑者の男。被害者の妻。そして、被害者自身(彼の霊が巫女の口を借りて語る)の3人が、「自分が殺した」と主張する。矛盾する供述により、事件の真相は藪の中。日本語としての「藪の中」の語源となった作品。

 芥川龍之介の小説には、人間の心理や性質、そして生き様が克明に描かれており、「あの時、自分はどうしてあんな気持ちになったのか」「なんでこんなことをしてしまうのか」といった疑問を解くヒントに溢れている。「自分のことを客観視できる人になりたい」と思う方には特におすすめしたい。

文=K(稲)