生きづらさを感じるなら、これを読もう! 太宰治の名作【5選】

文芸・カルチャー

2019/3/24

 何かと生きづらい世の中。厭世的な気分を抱えたときに、気分を盛り上げてくれるような、何か前向きな本や音楽、名言なんかに触れてみるのは確かに良いことだ。

 しかし、そんなものすらも受け付けないほどの厭世の念に囚われることもある。そんな時、私たちが自然と求めるものは、「励まし」ではなく「共鳴」なのではないだろうか。

 太宰治の作品は、その代表作『人間失格』に表れているように、厭世的な空気が全体に漂う。それは作者自身の生涯からも強くうかがえる。

 では、太宰は人間や社会を全面的に嫌っていたのか。それは違う。太宰はむしろ、人間の真の美しさを大いに愛していたように思われる。暴力的な「普通」に覆われた世の中に汚されていく繊細な登場人物、美しく儚い人間の営みは、きっとあなたの厭世観に寄り添ってくれるはずだ。

 本稿では太宰治の代表的な作品を5点、ご紹介したい。

■地獄。それでも生きる人間のすがた――「人間失格」

人間失格
『人間失格(新潮文庫)』(太宰治/新潮社)

 夏目漱石の代表作『こころ』と今なお出版部数を競う、日本近現代文学の最高傑作のひとつ。作者本人を思わせる主人公葉蔵の壮絶な半生を綴った物語だ。

 破滅的な女性関係、心中未遂、勘当、モルヒネ中毒、自殺未遂…。奈落の落とし穴に堕ちる主人公だが、決して悪人には思えない。狂っているのは誰なのか、すべてを失った人間が求めるものは何か、破滅は救いなのか、そもそも、なぜ生き続けるのか。壮絶な物語は、重く、つらく、哀しく、だが、どこか少し温かい。

■魅力的かつ破滅的。強い妻とは―「ヴィヨンの妻」

ヴィヨンの妻
『ヴィヨンの妻(新潮文庫)』(太宰治/新潮社)

 こちらの作品も作者の面影が濃い詩人の男が登場するが、主人公はその妻である。飲み屋のツケを踏み倒した挙句盗みを働いた夫は、普段から外をほっつき歩き、女を何人もたぶらかす。でもどうしたことか、途轍もなく魅力的なのだ。

 理不尽な状況に立たされても折れることのない主人公はいろいろな意味で「強い女」だ。苦しさと真っ向から対峙して潰れる男とは違い、シニカルな態度で理不尽な世を渡る主人公の生き様からは学び得るものが大きい。

■人を信じるこころの美しさ―「走れメロス」

走れメロス
『走れメロス(新潮文庫)』(太宰治/新潮社)

 教科書や児童向けの話にも多く登場し、言わずと知れたストーリーだが、再読してみると気づくことも多い太宰の代表作。親友を人質にして走り続けるという物語は、清い信頼の尊さを説いている。

 大人になった今、違った角度から本作を読み返してみるのもおもしろい。なぜ好きな相手のことを疑ったり傷つけたりしてしまうのか、など、逆説的に学び得ることも多い。簡潔な短編で読みやすいため、太宰治入門の1冊としてもおすすめだ。

■没落する美しさと、これからの強い女性像―「斜陽」

斜陽
『斜陽(新潮文庫)』(太宰治/新潮社)

 終戦直後の没落する貴族階級を描いた、『人間失格』と並ぶ太宰のベストセラー。当時の不倫相手の日記が題材となっている。

 主人公のかず子をはじめとする4人の人物の、それぞれの没落をなぞるストーリー。混沌とした時代、世の中には平気な顔で悪いことをする「札のついていない不良」が溢れており、その中で潰される者、自殺する者、強く生きることを決める者…。それぞれの繊細さと強さが絡み合う。

 国語辞典の「斜陽」の項目に、“没落”の意味が加わるきっかけとなった作品であり、当時の社会に多大なる影響を与えた。

■少女のリアルな息遣いが宿る小説―「女生徒」

女生徒
『女生徒(角川文庫)』(太宰治/角川書店)

 実際の少女の日記を題材に作成された、14歳の女学生の一日を描いた物語。終始一貫して少女の告白体で書かれており、周りの人物や、頭の中でふわふわと移り変わる思考が綴られている。

 時代は変わっても、“少女の若い感受性”はさほど変わらないのだと気づかせてくれる作品でもある。題材の日記をほぼそのまま引用した箇所も多いと言われており、そのためか、実際に女生徒の息遣いが文面からひしひしと伝わってくる。

 太宰治というと、心中や薬物、破滅的な女性関係といったイメージが強く、また数々の「クズ伝説」も有名で、確かにその破滅はもはや気持ちが良いくらいのものだ。

 だが実際に太宰の作品を手に取ってみると、その破滅の根底にあるものは決して「悪」ではなく、過度の繊細さと優しさによるものなのだと気づかされることだろう。

 上では触れていないが、太宰治という人物の不器用な優しさと愛に触れたいのならば、「畜犬談」という作品も筆者のイチオシだ。

文=K(稲)