歴史上の重要人物のために切腹? 絶対に泣けるダークファンタジー/『黄昏出張所』⑦
もし、人生をリセットできるなら――。不遇の青年・遠野ハジメ。彼の目の前に現れたのは、歴史上の人物の意識を喰い、過去を変えてしまう「蟲」から歴史を守る「蟲番」だった。蟲番からの3つのミッションに成功し、ハジメは報酬をもらえるのか――? 感涙のラストが待つ、ダーク・ファンタジー!
『黄昏出張所』(中村ふみ/KADOKAWA)
灯りも持っていかれてしまったので、手探りで水を飲み、椀の中の粥を流し込んだ。空腹だったからか充分美味く感じた。
格子の前に食器を置き、ハジメは這いつくばって奥の筵に戻った。土を固めただけの床よりは筵でもあった方がいい。両脇は板だが、奥だけは土壁のようだ。
いったい何をされたのか、本当に体中が痛む。
座ったまま膝の上に顔を乗せ、頭を抱え込んだ。そのとき初めて自分の頭が丁髷になっていることに気付く。その独特の手触りに絶望感が増した。
「……出られるのかな、オレ」
「ご心配なく。出られますよ」
蟲番の声がして、ハジメは思い切りよく顔を上げた。いつの間に入って来たのか、確かに牢の中にあの男がいた。
「どういうことだよ、これ」
「臨時職員の業務…