KADOKAWA Group

Facebook Twitter LINE はてブ Instagram Pinterest

中村ふみ

職業・肩書き
作家
ふりがな
なかむら・ふみ

ジャンル

プロフィール

最終更新 : 2020-02-06

秋田県生まれ。2010年『裏閻魔』で第1回ゴールデン・エレファント賞大賞を受賞し、デビュー。他の著作に、『魔女か天女か』『冬青寺奇譚帖』『なぞとき紙芝居』『夜見師』『死神憑きの浮世堂』『天下四国』シリーズなどがある。

「中村ふみ」のおすすめ記事・レビュー

  • おすすめ記事

歴史上の重要人物のために切腹? 絶対に泣けるダークファンタジー/『黄昏出張所』⑦

歴史上の重要人物のために切腹? 絶対に泣けるダークファンタジー/『黄昏出張所』⑦

もし、人生をリセットできるなら――。不遇の青年・遠野ハジメ。彼の目の前に現れたのは、歴史上の人物の意識を喰い、過去を変えてしまう「蟲」から歴史を守る「蟲番」だった。蟲番からの3つのミッションに成功し、ハジメは報酬をもらえるのか――? 感涙のラストが待つ、ダーク・ファンタジー!

『黄昏出張所』(中村ふみ/KADOKAWA)

 灯りも持っていかれてしまったので、手探りで水を飲み、椀の中の粥を流し込んだ。空腹だったからか充分美味く感じた。

 格子の前に食器を置き、ハジメは這いつくばって奥の筵に戻った。土を固めただけの床よりは筵でもあった方がいい。両脇は板だが、奥だけは土壁のようだ。

 いったい何をされたのか、本当に体中が痛む。

 座ったまま膝の上に顔を乗せ、頭を抱え込んだ。そのとき初めて自分の頭が丁髷になっていることに気付く。その独特の手触りに絶望感が増した。

「……出られるのかな、オレ」

「ご心配なく。出られますよ」

 蟲番の声がして、ハジメは思い切りよく顔を上げた。いつの間に入って来たのか、確かに牢の中にあの男がいた。

「どういうことだよ、これ」

「臨時職員の業務…

全文を読む

時空を超えてたどりついたのは●●時代! 傷だらけで牢屋にいたハジメはどうなる!? 絶対に泣けるダークファンタジー/『黄昏出張所』⑥

時空を超えてたどりついたのは●●時代! 傷だらけで牢屋にいたハジメはどうなる!? 絶対に泣けるダークファンタジー/『黄昏出張所』⑥

もし、人生をリセットできるなら――。不遇の青年・遠野ハジメ。彼の目の前に現れたのは、歴史上の人物の意識を喰い、過去を変えてしまう「蟲」から歴史を守る「蟲番」だった。蟲番からの3つのミッションに成功し、ハジメは報酬をもらえるのか――? 感涙のラストが待つ、ダーク・ファンタジー!

『黄昏出張所』(中村ふみ/KADOKAWA)

 胃の辺りがひどくむかむかしていた。

 肩は痛むし、指先は感覚がないし、背中が腫れている感覚がある。片目も腫れているのか、目蓋がうまく上がらない。

 状況を一つ一つ説明するとまだまだ長くなる。つまり全身の具合が悪いと言った方が早かった。

(暗いな)

 片目を開けてもあまり変わらなかった。閉じても開けても暗闇だった。たぶん仰向けになっている。一応屋内のようだが、それにしては寝心地が悪すぎた。布団の上でないことは間違いない。

 触れた手の感触からすると筵(むしろ)とか蓙(ござ)というものに近い気がする。屋内でこんなものの上に寝ているというのはどういう状況なのだろう。

 どこからか男たちの囁き声が聞こえてくるが、何を言っているのかまではわからなか…

全文を読む

蟲番との黄昏どきの面接。そしてついに時空を超える…! 絶対に泣けるダークファンタジー/『黄昏出張所』⑤

蟲番との黄昏どきの面接。そしてついに時空を超える…! 絶対に泣けるダークファンタジー/『黄昏出張所』⑤

もし、人生をリセットできるなら――。不遇の青年・遠野ハジメ。彼の目の前に現れたのは、歴史上の人物の意識を喰い、過去を変えてしまう「蟲」から歴史を守る「蟲番」だった。蟲番からの3つのミッションに成功し、ハジメは報酬をもらえるのか――? 感涙のラストが待つ、ダーク・ファンタジー!

『黄昏出張所』(中村ふみ/KADOKAWA)

 公園の前に立つ。

 あの男は現れるのだろうか。空は夕焼けに染まり、黄昏が近づいて来る。朝見えたのはいったいなんだったのか。

(オレがおかしくなっているか、そうでもないのか)

 それがこれからはっきりする筈だ。

 果たして彼は実在するのだろうか。確かめようと思っていた。公園はまだ子供連れや老人や学生などが歩いている。黄昏までには減るだろう。

「お母さん、お腹すいた」

「晩ご飯はお父さんが帰ってきてからね」

 そんな会話をしながら母と子が公園から帰っていく。昨日と同じような風景だ。

(親なんて簡単に裏切るんだぞ)

 子供に教えてやりたかった。

 だが、きっとあの子の親は違うのだろう。人は親から生まれる。驚異的な偶然の産物。ならば、自分には他の人生など…

全文を読む

幼い頃のネグレクトの記憶に涙…そして黄昏どきの面接へ向かうが…絶対に泣けるダークファンタジー/『黄昏出張所』④

幼い頃のネグレクトの記憶に涙…そして黄昏どきの面接へ向かうが…絶対に泣けるダークファンタジー/『黄昏出張所』④

もし、人生をリセットできるなら――。不遇の青年・遠野ハジメ。彼の目の前に現れたのは、歴史上の人物の意識を喰い、過去を変えてしまう「蟲」から歴史を守る「蟲番」だった。蟲番からの3つのミッションに成功し、ハジメは報酬をもらえるのか――? 感涙のラストが待つ、ダーク・ファンタジー!

『黄昏出張所』(中村ふみ/KADOKAWA)

 工事現場はよかった。

 ぼやぼやするなと怒鳴られることはあるが、たいていはその場限りだ。叱責や嫌みがいつまでも続くようなことはない。

 たまには褒められることも礼を言われることもある。缶コーヒーなんか奢ってもらったりもする。ここのおっちゃんたちの方が死んだ父よりずっと優しかった。

「遠野、仕事が丁寧になったな。明日も来ないか」

 現場監督からそんな声もかけてもらった。

「お願いします」

 この監督に当たったときはラッキーだ。日雇いの作業員にも公平に接してくれる。

 頼んだら正式に雇ってくれるかもしれない。だが、どこかでハジメにも躊躇いがあった。なんのために高い授業料を出して二年も情報処理を勉強したのかという気持ちがある。ハジメにもやってみた…

全文を読む

突然眼前に現れた古い建物と不思議な男、覚えのない面接を受けるが…絶対に泣けるダークファンタジー/『黄昏出張所』③

突然眼前に現れた古い建物と不思議な男、覚えのない面接を受けるが…絶対に泣けるダークファンタジー/『黄昏出張所』③

もし、人生をリセットできるなら――。不遇の青年・遠野ハジメ。彼の目の前に現れたのは、歴史上の人物の意識を喰い、過去を変えてしまう「蟲」から歴史を守る「蟲番」だった。蟲番からの3つのミッションに成功し、ハジメは報酬をもらえるのか――? 感涙のラストが待つ、ダーク・ファンタジー!

『黄昏出張所』(中村ふみ/KADOKAWA)

「……村役場?」

 そんな印象を受けた。しかし、今どきは村役場だって窓ぐらいサッシになっているだろう。ガタガタの木の枠にガラス、窓ガラス越しに暗くなった夕焼けの空が見える。天井には簡素な笠がついているだけの電球がぶらさがっていた。

「前に座ってください」

 声の主はカウンターの向こうにいた。

 絵に描いたような七三の髪型をしていて、上にだけ黒い縁があるクラシックな眼鏡をしていた。白いワイシャツに地味なネクタイ、サスペンダーに黒い腕貫。遥か昭和の公務員のような印象を受けた。それでもすらりとしていて、やぼったい雰囲気はない。

「聞こえませんでしたか」

「あ……いえ、はい」

 よくわからないまま、ハジメは男の前の椅子に腰をかけた。

 カウンターの内側…

全文を読む

天涯孤独のハジメは、詐欺師として堕ちてしまうのか。絶対に泣けるダークファンタジー/『黄昏出張所』②

天涯孤独のハジメは、詐欺師として堕ちてしまうのか。絶対に泣けるダークファンタジー/『黄昏出張所』②

もし、人生をリセットできるなら――。不遇の青年・遠野ハジメ。彼の目の前に現れたのは、歴史上の人物の意識を喰い、過去を変えてしまう「蟲」から歴史を守る「蟲番」だった。蟲番からの3つのミッションに成功し、ハジメは報酬をもらえるのか――? 感涙のラストが待つ、ダーク・ファンタジー!

『黄昏出張所』(中村ふみ/KADOKAWA)

(なんだよ……)

 仕事を紹介してくれるというので久しぶりに会ったのだ。向こうが悪事の共犯者を探していたとしても、ハジメも文句が言えた義理ではない。結局お互い利用しようとしただけだった。

 とぼとぼ歩いているうちに、空が青からうっすら赤みを帯びてきた。夕焼けが目に染みる。

 騙される側の人間――確かにそうだった。

「……変わりたい」

 自分で自分が厭だった。

 だから戸惑いながらも圭人の誘いに乗ってしまった。

 気がつくと公園の前にいた。遊んでいた子供たちも帰る時間になったらしく、何人か出てきた。

「おばあちゃん、アイス食べたい」

「はいはい、家に帰ってからね」

 そんな微笑ましい会話が聞こえてきた。

 残暑も終わりつつある九月の夕暮れ。幸せなおうち…

全文を読む

二十歳の不遇の青年が一攫千金を夢見て時を駆ける! 絶対に泣けるダークファンタジー/『黄昏出張所』①

二十歳の不遇の青年が一攫千金を夢見て時を駆ける! 絶対に泣けるダークファンタジー/『黄昏出張所』①

もし、人生をリセットできるなら――。不遇の青年・遠野ハジメ。彼の目の前に現れたのは、歴史上の人物の意識を喰い、過去を変えてしまう「蟲」から歴史を守る「蟲番」だった。蟲番からの3つのミッションに成功し、ハジメは報酬をもらえるのか――? 感涙のラストが待つ、ダーク・ファンタジー!

『黄昏出張所』(中村ふみ/KADOKAWA)

prologue

 カサ──カサカサッと、微かに音がした。  蟲番はお茶の入った湯飲み茶碗を置き、小さく溜息をつく。  しばらく静かだったのだが、また活動期に入ったのだろうか。真ん中にぽつんと置かれた机の抽斗から望遠鏡を取り出すと席を立った。  書類の片付けを終えたかったが、なにしろ膨大だ。蟲番としての仕事の合間にやるしかない。愛用の万年筆と算盤だけが頼りで、〈IT化〉などというのは永遠にありえない。ここはそういう職場だった。  望遠鏡を使う前にかけていた眼鏡を外す。滅多に崩れることのない七三の髪を少し後ろに撫でつけた。几帳面に黒い腕貫の左右の高さを揃える。  窓の向こうは黄昏。窓を開けると、色や時代が混ざり合い、奥へ奥へとねじ曲…

全文を読む

「中村ふみ」のおすすめ記事をもっと見る

「中村ふみ」の本・小説

  • ランキング

異邦の使者 南天の神々 (講談社文庫)

異邦の使者 南天の神々 (講談社文庫)

作家
中村ふみ
六七質
出版社
講談社
発売日
2022-06-15
ISBN
9784065279670
作品情報を見る
大地の宝玉 黒翼の夢 (講談社文庫)

大地の宝玉 黒翼の夢 (講談社文庫)

作家
中村ふみ
六七質
出版社
講談社
発売日
2021-06-15
ISBN
9784065230909
作品情報を見る
永遠の旅人 天地の理 (講談社文庫)

永遠の旅人 天地の理 (講談社文庫)

作家
中村ふみ
六七質
出版社
講談社
発売日
2020-08-12
ISBN
9784065203798
作品情報を見る
砂の城 風の姫 (講談社文庫)

砂の城 風の姫 (講談社文庫)

作家
中村ふみ
六七質
出版社
講談社
発売日
2020-05-15
ISBN
9784065190272
作品情報を見る
天空の翼 地上の星 (講談社文庫)

天空の翼 地上の星 (講談社文庫)

作家
中村ふみ
六七質
出版社
講談社
発売日
2020-04-15
ISBN
9784065189191
作品情報を見る
獣の巫女は祈らない (講談社X文庫)

獣の巫女は祈らない (講談社X文庫)

作家
中村ふみ
THORES柴本
出版社
講談社
発売日
2019-07-05
ISBN
9784065156537
作品情報を見る
雪の王 光の剣 (講談社X文庫)

雪の王 光の剣 (講談社X文庫)

作家
中村ふみ
六七質
出版社
講談社
発売日
2018-04-05
ISBN
9784062869829
作品情報を見る
砂の城 風の姫 (講談社X文庫)

砂の城 風の姫 (講談社X文庫)

作家
中村ふみ
六七質
出版社
講談社
発売日
2017-07-04
ISBN
9784062869522
作品情報を見る

「中村ふみ」人気の作品ランキングをもっと見る

「中村ふみ」の関連画像・写真

「中村ふみ」の関連画像・写真をもっと見る