ベスト・ストーリーズIII カボチャ頭
ベスト・ストーリーズIII カボチャ頭 / 感想・レビュー
星落秋風五丈原
ウィリアム・トレヴァー「昔の恋人」妻に公然と恋人との逢瀬を告げて出て行く夫。その夫に届く手紙を毎回封を切って事前に読む妻。その愛人の同居人でいつも手紙のダシにされる女性が亡くなったことで皮肉な事に愛がなくなっていたことに気づく。うまいですね。愛は永遠ではないんですよ。「足下は泥だらけ」アニー・プルー「ブロークバック・マウンテン」にも登場したロデオにいそしむ男が主人公。ジョイス・キャロル・オーツ「カボチャ頭 ボスニアの大学院生の訪れを受けた未亡人の話」いろんな境界線を越える話。
2016/09/10
miyu
小洒落たニューヨーカーにはまるで縁がない私だが、これは比較的最近の短編を集めた作品集のようで興味津々。もちろんウィリアム・トレヴァーお目当てに読み始めた。どうして男性のトレヴァーがこんなに雑念もなく女性を描けるのかが不思議だ。男性だからこそなのかもしれない。淡々とした流れなのにそこには人間的な弱さや温かみや人の営みの年月が確実に見えて、そして誰に対しても彼の視線は公平だ。安定のトレヴァー。更に私の心をとらえたのはアニー・プルー。全然知らない世界なのにひどく気持ちをつかまれてしまった。文章(翻訳)も大好き。
2017/03/26
くさてる
雑誌「ニューヨーカー」掲載作品のアンソロジー。一癖も二癖もある作品が揃っていますが、もともと好きなウィリアム・トレヴァー、ジョイス・キャロル・オーツ、スティーヴン・キングの三人はさすが。とりわけキングはもう本当に胸糞悪い厭なキングで本当にひどい(褒め言葉)。女性に迫る避けられない運命としての暴力を描いたオーツも、すごい。普通の人々の普通の出来事をこんな風に描くトレヴァーも。ほかの作品では、不思議なユーモアがあるミュリエル・スパーク、鼻につく泥と牛の匂いまで感じられるようなアニー・プルーも印象に残りました。
2016/09/28
ネコベス
ニューヨーカー誌の1990年から現在に至るまでに掲載された短編の中から選りすぐった14篇を収録したアンソロジー。老夫婦の過去の不倫による微妙な心の内を描いたウィリアム・トレバー「昔の恋人」、シニカルさが楽しいジョナサン・フランゼン「気の合う二人」、不気味な余韻が後を引くジョイス・キャロル・オーツ「カボチャ頭」、突然訪れた悲劇に戸惑う夫の心理描写が巧みなスティーブン・キング「プレミアム・ハーモニー」、ファンタジックで不思議な恋愛模様を描いたカレン・ラッセル「悪しき交配」が良かった。
2018/12/23
ハルバル
なぜ好んで不倫というテーマを取り上げるのか不思議だったウィリアム・トレヴァーだが、解説にあるように「自分がよく知らない場所」だからなのか。アリス・マンロー「流されて」もそうだけどこの二編の、時間の重みが実感を伴って迫ってくる感じがとても好きだ。特に「流されて」は映画的手法で時間を行きつ戻りつしながら語られる女性の数奇な人生に思わず感嘆のため息を。それは「なんて素晴らしい物語を書いた&書けるのだろう」という称賛と、女性の運命への両方に。時々、短篇はトレヴァーとマンローさえ読めれば充分じゃないかとすら思う。
2019/04/23
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