日本のことはぜーんぶマンガが教えてくれた!「頭中将=金髪の呪縛」『あさきゆめみし』

マンガ・アニメ

2018/11/1

11月1日発売の和樂12月号の特集は「茶の湯ROCK!!」。かなりぶっ飛んだ特集になっちゃいました。

茶の湯はこんなにROCK!!だった!!

 ダ・ヴィンチニュースをお読みのみなさん、こんにちは。和樂編集長のセバスチャン高木です。セバスチャン高木などと名乗っていると、たまに読者の方から「編集長さんはどちらのご出身なんですか? スペインとか?」と聞かれるのですが、私、長野県木曽生まれの正真正銘の日本の田舎者です。ただ、プロレスが好きで、プロレスラーみたいにリングネームをつけたくて、なんとなくセバスチャンと名乗ってしまいました。まぁ、編集者にとって出版の現場はリングみたいなものですから、よしとしましょう。

 さてさて、11月1日発売の和樂12月号の特集はなんと!(自分で言うな!)「茶の湯ROCK!!」です。「またまたふざけてぇ」とおしかりを受けそうですが、私はいたってまじめです。今でこそ日本の伝統として、高尚でオーソドックスな印象が強い茶の湯ですが、本来は従来の美への挑戦の系譜。茶の湯を継ぐ者たちは先人たちが築き上げた美の基準に挑戦し、それを乗り越え新しい美を創り上げてきました。それが茶の湯の歴史です。

ボブ・ディランと黒樂茶碗。なんとも似合います。

ボブ・ディランと千利休の共通点とは?

 Rock’n’rollの語源は「揺れて転がる」。現状に甘んじず、自由な発想で新しい価値観の音楽を築いてきたロックの精神は、まさに茶の湯の思想そのもの。ね、なんとなくで特集を企画したわけではないんですよ!

 特集では伝説のロックミュージシャンたちの名言を名茶椀とともに紹介しています。たとえばボブ・ディランは「自分のためにではなく、他人のために音楽を作ってみたところで、それは多分、その人たちと関わることにはならないだろう」と言っています。この言葉に合わせたのは茶の湯界のキングオブロックである千利休が、自身が追い求める美の象徴として長次郎に焼かせた黒樂茶碗。だれのためでもなくおのれの美をひたすら追い求めた利休の精神はボブ・ディランの言葉と見事に呼応します。

茶の湯界のキングオブロックと言えば千利休しかいません。特集では「利休がKing of Rock!である10の理由」を紹介。

ROCKは茶の湯への入り口

 茶の湯とROCK! 一見荒唐無稽に思えますが、実はすごくぴったりの組み合わせだと思うのですがいかがですか? 今回「茶の湯ROCK!!」という特集を組んだのにはもうひとつ理由があります。それはROCKを茶の湯への入り口にしたいと思ったからなんです。

 残念ながら今を生きる私たちにとって、茶の湯の世界はとても距離が遠いものになってしまっています。むしろROCKのほうが近しくて、毎日のように耳にする存在です。ですから私たちのいつもとなりにあるROCKと茶の湯との共通点を紹介することによって、茶の湯への新しい入り口を作ってみようと思ったのです。和樂は日本文化の入り口マガジンを標榜しているのですから、いろんな入り口をつくってもいいですよね。

クラッシュのポーム・シムノンは「自分がプレイしているのは音楽ではなく、姿勢であり人生だ」と語ります。この言葉の音楽を茶の湯に変えるとあら不思議、茶の湯の思想そのものになっちゃいました。

それは源氏物語への最高の入り口!

 日本文化に関する特集を組む際、「違う入り口がないかなぁ」と常に思案しています。それはおそらく、日本の文化に興味をもつきっかけが漫画という入り口だったからなのでしょう。日本文化への入り口としての漫画。その最高傑作ともいえる存在が「あさきゆめみし」です。

 えー!「あさきゆめみしって当たり前すぎない?」と不満を託つあなた、そんなことを言うと年齢がばれてしまいますよ! 和樂のアルバイトのK野などはもう半年以上も私のデスクに「あさきゆめみし」の単行本が積まれているというのに、「なんですかそれー?」ととぼける始末です。私が担当している著者の方も源氏物語の講演で当たり前のように「あさきゆめみし」の話しをしたところ会場全体がぽかーんとしてしまい、冷や汗を流されたとおっしゃっていました。嘆かわしいことに今時の若者にとって「あさきゆめみし」は源氏物語への隠された入り口になってしまっているのです。

あさきゆめみし」。平安貴族が気持ちいいくらい少女漫画の王道キャラとして描かれています。

紫式部が漫画家として生まれ変わった!

 言わずと知れた源氏物語は平安時代に紫式部という天才作家によって紡がれた世界最古の恋愛小説です。とんでもなくプレイボーイの主人公光源氏が次々とくりひろげる恋愛ゲームは、今読んでもエキサイティング!

「え?おまえ読んだの?」という声が聞こえてきそうですが、実は私、林真理子さんによる「六条御息所源氏がたり」という小説版源氏物語を5年ほど担当しており、原稿をいただく際には原文との突き合わせなどをしておりました。もちろんその前に谷崎潤一郎さんや瀬戸内寂聴さんによる現代語訳を読んでいたのですが、その入り口となったのが大和和紀さんの「あさきゆめみし」なのです。

 平安時代というとよく絵に描かれているようななんとなくぽわーんとした人物像を思い描きますが、「あさきゆめみし」に登場する光源氏、頭中将、紫の上などはもうこれでもかというくらいキラッキラに描かれています。もう目なんて顔の半分くらいありますし、光源氏のライバルである頭中将にいたっては金髪ですからね。

 しかしながら、このキャラクター設定が私たちにとってはリアルなんです。歴史をテーマにした漫画にはひとつ乗り越えなければならない大きなハードルがあります。それは「名前と顔がいつまでも一致しなくて誰が誰だかわからなくなってしまう」問題です。「あさきゆめみし」はそのハードルをやすやすと乗り越えました。だって金髪ですよ。間違えようがないではありませんか。

 源氏物語は光源氏を主人公としていますが、ものすごく登場人物が多く、それらの人物がしっちゃかめっちゃかに物語をくりひろげる群像劇です。しかも平安時代の風習などがベースにあるので非常に難解とされています。ですが「あさきゆめみし」はわかりやすくキャラクターを描き分け、衣装は十二単や狩衣を着ていますが、設定を限りなく少女漫画の王道に近づける事によって、まるで登場人物たちが今を生きているかのように描ききっています。

 そんな「あさきゆめみし」にもたったひとつだけ問題があります。それは、瀬戸内寂聴さんを読んでも、林真理子さんを読んでも永遠に頭中将が金髪ビジュアルであるということ。文庫版の帯に瀬戸内寂聴さんが書かれているように確かに作者である「大和和紀さんは二十世紀の紫式部」なのかもしれません。

セバスチャン高木
1970年生まれ。大学卒業後2年間、ヨーロッパ、北アフリカを中心にバックパック旅行を経験。テレビの制作会社を経て小学館入社。『Domani』7年、『和樂』15年の編集を手がける。好きなもの:仏像巡り、土門 拳、喫茶店、マンガ

日本のことはぜーんぶマンガが教えてくれた!
・第6回『モディリアーニにお願い』相澤いくえ
・第5回『とんかつDJアゲ太郎』小山ゆうじろう、原案:イーピャオ
・第4回『鼻紙写楽』一ノ関圭
・第3回『妖怪ハンター』諸星大二郎
・第2回『青春うるはし! うるし部』堀道広
・第1回『阿・吽』おかざき真里