マキタスポーツは“自意識”をどのように解消したのか? 初小説『雌伏三十年』に見る過去との決別
28歳で芸人として遅咲きデビューした後、ミュージシャンとしても本格的に活動を開始。さらに俳優、文筆家としても活躍し、幅広い分野で才能を発揮しているマキタスポーツさん。『雌伏三十年』(文藝春秋)は、そんな彼が初めて書いた小説作品だ。この小説で、何者かになろうとして必死にもがいていた自らの過去、自意識の葛藤を赤裸々に語ったマキタスポーツさんに執筆の背景、込めた思いを聞いた。
(取材・文=橋富政彦 撮影=中 惠美子)
生涯に1回しか書けないものを書いた
――マキタスポーツさんの小説家デビュー作となった『雌伏三十年』は、もともと文芸誌『文學界』で2015年から2016年にかけて連載されていた作品ですが、どういう経緯で小説を執筆することになったのですか。
マキタスポーツさん:『文學界』の担当編集者に「何か書いてみませんか」と声をかけてもらったことがきっかけです。当時はそんなど真ん中の文芸誌で小説を連載するような芸人っていなくて、ある種のフロンティアになれるかなっていう、割とよこしまな気持ちで引き受けたんですよ。でも、そのすぐ後に又吉くん(又吉直樹)が芥川賞を獲…