人間の本性を暴きたくなる欲望を抑えられない――才能を開花させていく探偵が辿りつくのは…ビターなミステリ連作短編集
『五つの季節に探偵は』(逸木裕/KADOKAWA)
わたしはね、〈人間〉を見るのが好きなんだよ。他人の皮を剝いで、その奥にいる〈人間〉を見たい。そういうものにずっととり憑かれてる――『五つの季節に探偵は』(逸木裕/KADOKAWA)の主人公・みどりのセリフである。高校時代、熱中できるものが何も見つからなかったみどりは、みずからのことを〈常温の水道水〉と表現していた。口当たりがよく、温度もちょうどよく、それなりにミネラルも入っていて、まあまあ美味しい水道水。そんな自分に大きな不足を感じることもなく、自分はこのままたんたんと生きていくのだろうと思っていた彼女だが、唯一、他人と比べて少し変わっていることがあった。父親が調査会社を営んでいる、いわゆる探偵だということだ。
同級生もそれを知っているから、ときどき「お父さんに調査してもらってよ」なんて頼まれることもあったみどりは、同級生の怜から持ち込まれた「教師の弱みを握ってほしい」という依頼も当然、無理だと退けた。けれど怜は「だったらみどりが調査してよ」と食い下がる(父親の仕事を見たことがあるんだからできる…