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うらはぐさ風土記

うらはぐさ風土記

うらはぐさ風土記

作家
中島京子
出版社
集英社
発売日
2024-03-05
ISBN
9784087718591
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「うらはぐさ風土記」のおすすめレビュー

学生時代に過ごした街で感じる、“浦島太郎”のような不思議な感覚。そんな街での新生活を優しく描く『うらはぐさ風土記』

『うらはぐさ風土記』(中島京子/集英社)

 久々に学生時代に過ごした街を訪れると、何だか立ちすくむような、泣きたいような気持ちにさせられる。胸をつくような郷愁。物悲しさと、滑稽さ。かつて確かにこの街で過ごしたはずなのに、変化したその姿についていけない。懐かしいはずの街の風景に、ソワソワと落ち着かない気分にさせられる。そんな感覚は、“浦島太郎”状態とでも形容すればいいのだろうか。だが、注意深く視線を巡らせていけば、よく見慣れた風景も決して失われてはいない。どんなに街が変化しようと、変わらないものだって、絶対にあるはずだ。

 そんな街の過去と今、未来を描き出すのが、中島京子さんによる『うらはぐさ風土記』(中島京子/集英社)。変化していく街の風景を描き出したこの本は、ときに無性に切ない。だけれども、同時にクスッと笑わされてしまうようなおかしみもあり、そして、読後、すべてを包み込まれたような心地よさを感じさせる。

 主人公は、離婚を機に30年ぶりにアメリカから帰国した大学教員の沙希。母校での仕事のため、彼女は、介護施設に入った伯父が2年前まで暮らしていた空き家…

2024/3/6

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うらはぐさ風土記 / 感想・レビュー

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のぶ

中島さんらしい優しい雰囲気の物語だった。主人公は米国で日本語の教員をしていたもののその学科が廃止となり、離婚もしたことから帰国した、田ノ岡沙希。舞台は武蔵野の一角・うらはぐさ地区とそこにある昔からの商店街。描いているのは、これから動き出す商店街の再生活動の前段階で、そこに住むちょっと不思議な秋葉原さんの存在が面白い。本作ではややノスタルジックな商店街や地区に残る自然、そしてそこに根差したようなごく普通の食べ物や、そこに住む人々の群像劇。特に何も起きないけれど、なぜか癒されるような作品だった。

2024/04/03

ゆみねこ

離婚を機にアメリカから帰国し、武蔵野の一角・うらはぐさの伯父の家に住むことになった沙希。母校の女子大で教職につき、うらはぐさ地区に縁のある人々やユニークな女子大生たちとの出会い。町なかの四季、美味しそうなごはん、変わりゆく町と変わらずに残したいもの。特に大きなことが起きるわけではないが、とても楽しい読書が出来た。

2024/03/26

Ikutan

離婚を機にアメリカから帰国した沙希は、施設に入居したことで空家となったうらはぐさ地区にある伯父の家に引っ越してきた。近所には、学生時代によく行ったあけび野商店街が。母校で教鞭を振るう彼女の、懐かしい商店街の人々や学生たちとの新たな繋がりを描いた群像劇。中島さんの飄々としながら、くすりと笑える文章が好き。マーシーの変な敬語は、何度も笑っちゃったし、沙希がつける″しのびよる胡瓜″とか″刺し子姫″とかネーミングも面白い。マトリョーシカのルーツは知らなかったよ。散りばめられた蘊蓄も興味深くて楽しかった。

2024/04/24

pohcho

30年ぶりにアメリカから帰国し伯父の家に一人暮らすことになった沙希。伯父の友人夫妻(秋葉原さんと刺し子姫)や教え子の女子大生(マーシーとパティ)たちと知り合いゆるゆると暮らす日々が描かれる。日々のちょっとした出来事の中に過去と未来が交錯して、とりとめのない日常がなんとも言えず愛おしい。マーシーのとぼけた敬語が可笑しくて可愛くて、屋上農園もとても素敵なんだけど、ほんわかして食べもの美味しそうだけではなく、つらい話や考えさせられる話題もあり。狼男はせつなかった。いつまでもいつまでも読んでいたい小説。

2024/03/21

たま

50代の沙希が長年暮らしたアメリカから日本へ戻り、武蔵野の叔父の家(空き家)に住んで近くの母校で教鞭を取る。ほぼ同時に読んだドイツの小説『人間の彼方』も30代の女性がコロナ禍で田舎に引っ越す話だったが、人々の分断や荒廃が深刻なのに対し、沙希は土地勘があり武蔵野の土地柄もあってすぐに馴染む。このしっとりした空気感が日本だなと思う。小さい庭の四季、居酒屋と手料理、駅前商店街の衰退と再開発、土地の歴史の重層性、それを未来へどう受け継いでいくか、楽しく読めて日本の未来にも思いを馳せてしまう本。

2024/04/27

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