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彼女が言わなかったすべてのこと

彼女が言わなかったすべてのこと

彼女が言わなかったすべてのこと

作家
桜庭一樹
出版社
河出書房新社
発売日
2023-05-29
ISBN
9784309031095
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「彼女が言わなかったすべてのこと」のおすすめレビュー

LINEでしか繋がれないパラレルワールドの東京で生きる男女。やがて一方の世界で感染症が発生し――。桜庭一樹が新作小説で描き出した私たちのリアル

『彼女が言わなかったすべてのこと』(桜庭一樹/河出書房新社)

 パラレルワールドという空想上の設定はあるものの、それ以外は特に奇想天外な出来事が起こるわけではなく、ドラマティックな展開があるわけでもない。病と共に生きる30代女性の繰り返しの日々が日記のように丁寧に綴られていく。だが、淡々としたストーリー展開とは対照的に、突きつけられるものの衝撃は大きい。本書『彼女が言わなかったすべてのこと』(河出書房新社)で桜庭一樹氏は、また一つ小説の新しい可能性を見せてくれた。

 2019年9月の終わり、通り魔事件に偶然居合わせてしまった小林波間(なみま)は、そこで学生時代の同級生、中川と再会する。LINEを交換し、後日待ち合わせをするが、時間になっても彼は現れない。試しにビデオ通話を繋げてみると、互いの画面に映っているのは色違いの東京スカイツリー。どうやらふたりはパラレルワールドの東京を生きているようなのだ。

 波間と中川、ふたりを繋げるツールはLINEのみ。メッセージを通じてそれぞれの世界について情報交換をして交流を深めるが、年が明けてしばらくすると中川のいる世…

2023/8/3

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彼女が言わなかったすべてのこと / 感想・レビュー

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starbro

桜庭 一樹は、新作をコンスタントに読んでいる作家です。 本書は、厭な物(新型コロナウィルス、ウクライナ侵攻、癌、通り魔等)全てをパラレルワールドに押し込んじゃえ小説でした。 https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309031095/

2023/06/12

パトラッシュ

桜庭さんがパラレルワールド設定の小説とは意外だが、コロナのない世界からある世界を眺めると、現在から過去3年間を見ているような気分になる。毎日、何人が感染し世界中でいくら死んだなどという話を聞かされ続け、仕事や学業もリモートになるなど日常を奪われた日々は遠い悪夢か。しかも双方の世界は一本のLINEでのみつながり、言語コミュニケーションの不毛性を象徴するかのようだ。同じ人間が別の仕事をしているかと思えば元首相暗殺事件はコロナなき世界だけで起こる。サルトルやベケットの不条理演劇を、コロナを通じて観ているようだ。

2023/09/10

のぶ

桜庭さんらしい面白いが、わからない部分も多いパラレル小説だった。ある日主人公、三十二歳の小林波間は、通り魔事件が発生して混乱する路上で芸大時代の友人、中川くんと再会する。その場で LINE のIDを交換して後日待ち合わせをするが、なぜか会えない。どうやら波間と中川くんは別々の東京を生きており、あの日会えたのは偶然だったようだ。二人を繫げるのは LINE だけだった。加えて波間は胸に悪性腫瘍が見つかり、手術前に腫瘍を小さくするための治療を受けている最中だった。最近の世相を取り入れた不思議な世界の物語だった。

2023/06/13

たいぱぱ

登場人物の名前が波間や甍なのは桜庭さんらしいが、後は全く桜庭的退廃感がなくライトな印象。なのに、なのに、心の叫びが聞こえてきて、凄ぇ!と思った。レッチリがアルバム『I’m With You』を出した時の様に全然レッチリじゃないのに、これはこれで傑作だ!と思った感じと似てる。自分の意見は、社会に合わせてる?と自問自答することもあるし、自分の正義を振り回し人を弾劾する人々に憤慨する気持ちもわかる。『少女を埋める』の一連の騒動が、この桜庭一樹の叫びのような作品を産んだのかもしれないと思うと複雑な気分だ。

2023/08/09

まあか

丁度、西加奈子さん「くもをさがす」を読んだ後。フィクションとノンフィクションの違いはあれど、内容が重なる部分もあり、興味深かったです。自分が病気になったことって、なかなか人には話しづらい。でも、健康に過ごす人たちに混ざって、治療中の人や、今は症状が落ち着いていても再発の可能性を孕んで生活している人たちがいる。人によって、それぞれの状況は違い、すべての人を慮ると、何も言えずに、口をつぐむ。センシティブな内容であり、うまく表現しづらい、微妙な感情を、絶妙な言葉選びで表出している。伝わってくるものがありました。

2023/07/03

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