伊坂幸太郎の小説からおすすめを厳選・10作品

文芸・カルチャー

2018/1/20

ベストセラー作家・伊坂幸太郎の作品を読んだことがあるだろうか? ユーモラスな文体とテンポの良いストーリー展開。随所に張り巡らされた伏線から展開する予想外のラスト。多くのファンを魅了し続ける伊坂ミステリーの代表作を厳選して紹介しよう。

伊坂幸太郎(いさか・こうたろう)
1971年千葉県生まれ。東北大学法学部卒業。2000年『オーデュボンの祈り』で新潮ミステリー倶楽部賞を受賞してデビュー以降、『アヒルと鴨のコインロッカー』で吉川英治文学新人賞、『ゴールデンスランバー』で山本周五郎賞、第5回本屋大賞を受賞など著書・受賞とも多数。

■連続放火事件と落書き…半分しか血の繋がりのない兄弟の絆を描く!伊坂幸太郎『重力ピエロ』のタイトルに込められた意味

『重力ピエロ』(伊坂幸太郎/新潮社)

遺伝子という設計図によって人生が決まってしまうとしたら、そんなに虚しいことはない。人生とは何か。家族とは何か。伊坂幸太郎の『重力ピエロ』(新潮社)は、読む人に問いを続ける感動作だ。

 主人公は、遺伝子ビジネスを請け負う企業に勤める泉水(いずみ)。彼には、街の落書き消しを職とする春(はる)という弟がいる。半分しか血のつながりがないが、幼いころから仲の良い兄弟だ。ある日、街のあちこちで相次ぐ放火事件現場の近くに、グラフィティアートが残されていることに春は気づく。春に巻き込まれ、事件の謎を追う泉水。そして、次第にグラフィティアートと遺伝子ルールの奇妙なリンクが明らかになっていく。

 伊坂作品の魅力のひとつは、さまざまな洒落た引用と、名台詞の数々だ。この作品でもそれは健在。DNAにまつわる話やガンジーの生き様などの教養話は、脱線かと思いきや、兄弟の周りで起こるストーリーと巧みに絡み合って、読者に驚きと快感を与える。

血縁に左右されない家族の絆。謎解きに乗り出した主人公はどんな真実にたどり着くのだろう。『重力ピエロ』というタイトルに込められた意味を知ったとき、アナタは感動に震えるに違いない。

■標的は広辞苑? 「本屋襲撃」に隠された悲しい過去の物語――伊坂幸太郎の代表作『アヒルと鴨のコインロッカー』

『アヒルと鴨のコインロッカー』(伊坂幸太郎/東京創元社)

濱田岳、瑛太主演で映画化された『アヒルと鴨のコインロッカー』(東京創元社)は、日常でもありえそうな絶妙な不思議さに、苦々しい現実感を加味し、コミカルに描き出した青春ミステリーだ。

 主人公は、大学入学直前の椎名。引っ越してきた先で会ったのは、飄々とした長身の青年・河崎。初対面の彼は、いきなり本屋襲撃の計画を持ちかけてくる。標的は1冊の広辞苑。同じアパートに住むブータン人に、奪った辞書をプレゼントしたいのだという。勢いに押されて強盗計画に加担してしまった椎名は、無事(?)計画を成し遂げた後に出会ったペットショップの店長・麗子に、2年前の事件について聞く。それは、河崎とブータン人・ドルジ、そしてその恋人・琴美に起きた物語…。

過去の事件と現在、想像だにできなかったものが、次第につながっていく。伊坂ミステリーならではの、伏線回収に驚愕。本屋襲撃の裏に隠された真相には、誰もが度肝を抜かれるだろう。

 また、本書のスパイスは、ボブ・ディランの歌声と、ブータンの信仰だ。ほろ苦さたっぷりの青春ミステリーは、うまくいかない現実を生きるすべての人に読んでほしい。

■自殺屋、ナイフ使い、押し屋…生田斗真主演で映画化された「殺し屋」シリーズの第1弾! 殺し屋たちの「生」を描いた『グラスホッパー』

『グラスホッパー』(伊坂幸太郎/KADOKAWA)

伊坂幸太郎氏の『グラスホッパー』(KADOKAWA)は、人殺し業界(?)で生きる殺し屋たちを描いた作品。生田斗真主演で映画化されたこの作品は、『マリアビートル』『AX』と続くシリーズ第1作でもある。

 主人公は元教師の鈴木。妻を殺された鈴木は仇を取るため非合法団体に忍び込むが、ある日、妻を殺した男が車に轢かれる瞬間を目撃する。どうやら事故ではなく、「押し屋」という殺し屋の犯行だという。鈴木はその正体を探るが、彼が家庭を持つ父親だという事実に困惑する。

 一方、複数の個性的な殺し屋たちも、同じく「押し屋」を追っていた。天才的な腕前を持つ殺し屋たちに比べれば、鈴木はただの一般人だ。仇を取りたい一心で裏社会に飛び込んだものの、彼には何の武器もなく、あるのは妻との思い出だけ。鈴木を奮い立たせる亡き妻の言葉は、彼をどこへと導くのだろうか。

 無数の殺し屋が登場するストーリーは、とにかく物騒。いつ誰が死ぬかも予測不能だ。しかし、死を描いた物語だからこそ、いかに生きるかということを考えさせられる。殺し屋たちと一人の一般人の生き様を描いたこの物語は、手に汗握る疾走感溢れるストーリー。どんな人をも魅了する物語を読まない手はない。

■ベストセラー作家・伊坂幸太郎最新作『ホワイトラビット』の読みどころは?

『ホワイトラビット』(伊坂幸太郎/新潮社)

 本作は、誘拐を生業とする兎田孝則の妻・綿子ちゃんが誘拐されてしまうところから始まる。犯罪グループが綿子ちゃんを誘拐した理由は、胡散臭いコンサルタント野郎・折尾が犯罪グループの資金に手をつけ、どこかへ持ち去ってしまったので、そいつを見つけ出してもらうべく兎田に必死になってもらうため。犯罪グループの利己的な理由で事件に巻き込まれてしまった兎田は、ある一軒家に辿り着き、その家で籠城事件を起こすのだが……。

 また、今作ではストーリーの進行と一見関係ない形で、「オリオン座」と「レ・ミゼラブル」のエピソードが割り込んでくる。後半でそれらのキーワードが伏線として姿を現し始めるところには、伊坂作品の恐ろしさや奥深さを感じる。

 やがて、いろいろな事情や過去を抱える登場人物たちの感情や思いが、ひとつの結末に向かって転がるように展開していく。私たちは人生を歩んでいると、いろいろなことに遭遇する。その「いろいろ」を詰め込み、1冊のミステリーに仕上げるのが伊坂作品の真骨頂だろう。人生の「いろいろ」に何か思うことがあるときは、ぜひ伊坂幸太郎の本を手にとってみてほしい。

■伊坂幸太郎ワールド全開!ちょっと間抜けな裏稼業コンビの友情ストーリーが魅力の『残り全部バケーション』

『残り全部バケーション』(伊坂幸太郎/集英社)

掛け違えたボタンのように、ひとつ現実をずらすだけで、景色がたちまち間抜けに見えることがある。普段ならそのボタンを元に戻しておしまいだが、その先には何があるのだろうか。日常から一歩ズレた世界をおかしく温かく描き出す作家といえば、伊坂幸太郎をおいて他にいない。

『残り全部バケーション』(集英社)は、裏社会の下請け稼業に携わる2人の男の友情を中心とした物語。縦横無尽に伏線が張られた本作には、離婚する中年夫婦と娘、父親から虐待を受けている小学生男子…。連作短編の形式をとりながら、いろいろな人物が交錯する伊坂作品初心者にもおすすめのミステリーだ。

表題作『残り全部バケーション』では、普段なら無視してしまう迷惑メールに返信するところからとんでもない物語が展開する。そんな「ありえそうであり得ない世界」がこの本には込められている。

伊坂作品ならではのウィットに富んだ台詞も見どころだ。台詞を吐く登場人物たちは、皆どこか憎めない。犯罪者ですらどこか寂しげで魅力的だ。人の痛みに寄り添う繊細な描写に、自然と胸があつくなるだろう。登場人物たちの奮闘に笑って泣けて感動できるこの作品は、ぜひとも読んでほしい1冊だ。

■伊坂幸太郎初心者にもオススメ!口達者な家裁調査員が巻き起こすちょっぴりファニーな連作短編集

『チルドレン』(伊坂幸太郎/講談社)

 口達者な奴は癪に触るものだが、伊坂幸太郎が描いた登場人物だけはどうにも憎めない。『チルドレン』と続編『サブマリン』に登場するマイペースな男・陣内は、巧みな話術を武器に周囲を引き込んでいく。調子の良い彼を知れば知るほど、独自の正義感に少し尊敬の念を抱いてしまうのである。

 連作短編が5作のうち、冒頭の「バンク」は、陣内が大学生の頃、立ち寄った銀行で強盗に遭い、人質となる物語だ。銃を構える強盗たちに歯向かう言動に、周囲は辟易しつつ、どうも嫌いになれずにいる。

 表題作「チルドレン」で描かれるのはそれから12年後、家庭裁判所の調査員になった陣内だ。真面目な後輩に「適当でいい」と言う陣内だが、家裁調査員は天職なのかもしれない。つづく「チルドレンII」で彼は、「俺たちは奇跡を起こすんだ」「そもそも、大人が恰好良ければ、子供はグレねえんだよ」と啖呵を切る。面倒な陣内は決して友達にしたい存在ではないが、物事の本質を見抜く能力と、適当なようで実直に仕事に向き合う姿勢に、なんだかちょっぴり感動してしまうのだ。

 陣内が活躍するファニーな物語は、多くの人の心を温める。普段小説を読まない人にもオススメできる本作は、心がぽかぽかと温められる短編集だ。

■斉藤和義のために書き下ろした伊坂幸太郎作品! 音楽とのコラボから生まれた小説が〈幸せ〉を届ける『アイネクライネ』

『アイネクライネナハトムジーク』(伊坂幸太郎/幻冬舎)

6つの短編集冒頭の「アイネクライネ」は、シンガーソングライター・斉藤和義のために書き下ろされ、斉藤がその短編を原案に作った曲が「ベリーベリーストロング~アイネクライネ~」である。本書を読みこの曲を聴けば、小説の世界がそのまま歌として立ちのぼるのを体感できるだろう。

収録作は派手ではない小さなエピソードが積み重なる物語だ。「アイネクライネ」はサラリーマンがある偶然の出会いをする話だし、「ルックスライク」は父親に似ているのが嫌な男子高校生の話で、「ナハトムジーク」はボクシングのチャンピオンの回顧談──とまあ、これがしみじみと、いい。人と人が出会うきっかけや、その出逢いが別の人生にかかわる不思議が、伊坂幸太郎独特の筆致と構成力で紡がれる。

この短編集は、実に伊坂らしいユーモアと、緻密な伏線の妙(「ここでこうつながるのか!」と何度も驚かせてくれる)で構成されている。読者はクスリと笑い、時に驚き、次第に心が満たされていくだろう。読者を幸せにする──それが伊坂幸太郎の小説なのだ。アイネ(ある)クライネ(小さな)ナハト(夜の)ムジーク(曲)という標題のままに、静かな夜に一編ずつ読んで、幸せな気持ちで眠りにつく。そんな作品である。

■“あの男”の元祖も登場! 伊坂幸太郎が自身の処女作をリメイクした絵本『クリスマスを探偵と』

『クリスマスを探偵と』(伊坂幸太郎/河出書房新社)

 伊坂幸太郎が大学生のときはじめて書いた小説をもとにリメイクされた本作は、伊坂イズムが満載だ。主人公はどこかシニカルな中年探偵・カール。クリスマスイブに浮気調査で尾行中、公園で出会ったどこか飄々とした男。その男にカールが語るのは、父親との思い出話。サンタを信じていたころの自分、サンタのせいで壊れてしまった自分の家庭。やがて男との会話によって、浮気調査は思いもよらぬ真実に導かれていく――。

 物語に彩りを添えるのは、落ち着いたトーンのなかに情緒のただようマヌエーレ・フィオールの描きおろしイラスト。松本大洋氏をはじめ日本のマンガ家たちが推薦するフランスのバンドデシネ作家だ。

 物語に言及するとどれもネタバレになってしまうのであらすじについては上記でとどめるが、ひとつ事実を伝えるとすれば、カールの出会う男は、伊坂作品の“あの男”の元祖ということ。読み終えたあとに、“彼”が変遷を経てあの形に生まれ変わったことを考えると感慨深い。

 ラストのどんでん返しは、作家・伊坂幸太郎から読者に向けたクリスマスプレゼントだ。見方次第でいかようにも反転させられる世界の姿を、その目で確かめてほしい。

■密告、連行、逃げ場なし! 強烈な世界を描いた伊坂幸太郎『火星に住むつもりかい?』

『火星に住むつもりかい?』(伊坂幸太郎/光文社)

SFやファンタジーを想像させるタイトル。冒頭第1章は相当強烈だ。描かれるのは、近未来のような不思議な時間軸。「平和警察」と呼ばれる集団が、理由の有無に関係なく一般人を連行し、拷問し、公開処刑が横行する世界。家族、友人同士も疑心暗鬼になり、誰ひとり信じられないような人間関係。残酷な斬首刑は、一種のエンターテイメント性を含み、集団で狂気に陥って行く様が描かれている。読んでいてぞっとするのは、イスラム国(IS)を思い出させるから。おそらく、描かれたような状況が存在する国々は現在もあり、信じられないような悲劇に私たちは目をつむっているのだけではないかと。

読み進めると、平和警察の横行に対して、「正義の味方」が現れる。その正体は分からないが、不思議な武器と技によって無実の市民を助けていく。対する平和警察は、彼の登場で悪者になってしまった。読者は正義の味方の謎解きとスリルを、登場人物とともに体験していく。

 章ごとの展開は、PCのウィンドウを開くような感覚だ。視点を変えてがらりと印象を変えながら、どのウィンドウも開いたまま、最後に驚くような「まとめ」が待っている。巧妙なストーリー作り、読み応えは満点だ。

■最強の殺し屋は…恐妻家!? 伊坂幸太郎の最新小説『AX アックス』重版決定!

『AX アックス』(伊坂幸太郎/KADOKAWA)

2017年7月28日に発売された、伊坂幸太郎最新小説『AX アックス』の重版が決定した。同作は、「AX」「BEE」「Crayon」に書き下ろし「EXIT」「FINE」を加えた計5篇の連作集で、『グラスホッパー』『マリアビートル』に連なる「殺し屋シリーズ」の最新作。

<殺し屋シリーズ>
累計220万部を突破する、伊坂幸太郎の人気シリーズ。「蟬」「蜜柑」「檸檬」「槿」「天道虫」「スズメバチ」「兜」など、個性的な殺し屋たちが登場。日常の裏側で、組織や殺し屋たちが交錯する。シリーズ各作品は関連するものの続編ではなく、独立した作品となっている。

<あらすじ>
「兜」は超一流の殺し屋だが、家では妻に頭が上がらない。一人息子の克巳もあきれるほどだ。この物騒な仕事はもちろん家族には秘密。息子が生まれた頃からこの仕事を辞めたいと考えていたが、それは簡単ではなかった。「辞めるにはお金が必要」という仲介役の言葉を受け、仕方なく仕事を続けていた兜はある日、爆発物を仕掛ける計画を立てていた集団の一人を始末せよ、との依頼を受ける。標的を軽々と始末した兜だったが、意外な人物から襲撃を受けることになり…。恐妻家の殺し屋「兜」とその家族の物語に、感動と共感で涙する人が続出している。