10秒間のキスで移る細菌の数“8000万”!! 既婚者は腸内環境が整い、健康に良いという研究結果も/最強脳のつくり方大全⑤

健康・美容

公開日:2024/4/8

最強脳のつくり方大全』(ジェームズ・グッドウィン:著、森嶋マリ:翻訳/文藝春秋)第5回【全8回】

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最強脳のつくり方大全
『最強脳のつくり方大全』(ジェームズ・グッドウィン:著、森嶋マリ:翻訳/文藝春秋)

10秒間のキスで8000万もの細菌が移る

 腸の健康と人間関係にどんな関係があるのか、と不思議に思うかもしれない。だが、関係はあるのだ。

 たいていの人はキスをする。相手は母親かもしれないし、子供、配偶者、パートナー、友達かもしれない。キスはあらゆる霊長類に共通する行為だ。

 10秒間のキスで、8000万もの細菌が口の中に入りこむという研究結果がある。キス以外にも、他者との緊密な接触を伴う行為は無数にある。食べ物や飲み物を分けあったり、同じ器を使ったり、体に触れたり、呼気や体液をやりとりしたりと、人は常に体内の微生物を感染しあっている。それはごく自然な生活の一部で、大いに役立ってもいる。

 そのメリットを明らかにしたのは、2019年に『ネイチャー』誌に掲載されたウィスコンシン縦断研究だ。現在、60年を迎えたこの研究によって、家族や友人との交流が、人の糞便微生物叢の違いと関係していることがわかった。配偶者同士はそれ以外の人(兄弟など)に比べて、腸内細菌がよく似ていて、バランスも良くバラエティに富んでいる。

 その研究によると、〝結婚している人は、ひとり暮らしの人より、腸内細菌が多様かつ豊富で、中でも、仲が良いと答えた夫婦の腸内細菌は、とりわけ多様だった。結婚が健康に良いという長年にわたる研究結果を考えれば、これは注目に値する〟とのことだ(注2)。

 どうやら、親密な相手と一緒に暮らすのは、腸内細菌に良い効果があるらしい。ところで、親密とはどのぐらいの親しさを指すのだろう? 右記の研究では親密度をきちんと規定している。それによると、1日に9回キスをする夫婦は腸内細菌が同じになるという。

 これは、夫婦の性別には関係ない。

最強脳のつくり方大全
軽いキス

 運動は健康に良く、親密な関係も健康に良いというわけだ。しかし、当然のことながら、大きなストレスは健康に悪い。多くの研究で、精神的なストレスによって腸内の善玉菌が減り、さらに、免疫システムも低下するという結果が出ている。

 2011年に科学誌『ブレイン・ビヘイビアー・アンド・イミュニティ』に掲載されたマウスの実験では、攻撃的なマウスと同じケージに入れたマウスは、ストレスにさらされて、腸の善玉菌が減り、多様性もなくなり、悪玉菌がのさばって、病気にかかりやすくなり、腸内の炎症が増えた。さらに、同じ研究者がおこなった追跡調査では、マウスに抗生物質を与えて、腸内細菌を減らすと、ストレスによる炎症が起きなくなることがわかった。

 だが、無菌だったマウスの腸に正常な数の細菌がコロニーを作ると、ストレスによる炎症が再び発生した。また、別の無菌マウスの実験で、扁桃体に依存する記憶の保持には、正常な腸内細菌叢が欠かせないことがわかった。人間でも同じような結果が出ている。オーストラリアの研究では、試験期間中で緊張している大学生は、ラクトバチルスなどの善玉菌が減るとのことだ。強度のストレスと腸と脳の関係は、この章の後半で解説するとして、ここでは、できるだけストレスを減らせば、腸内細菌が元気になることを覚えておこう。

 2000年以上前にヒポクラテスが〝汝の食事を薬とせよ〟と言い、それ以降、人は食べ物によって健康を手に入れようとしてきた。だが、その試みはある程度までしか成功していない。

 公衆衛生の一環として、世界で初めて正式に食事指導がおこなわれたのは、第二次世界大戦中の1941年だった。それから80年が経った今、油と砂糖をたっぷり使った食べ物のせいで、肥満、糖尿病、高血圧が社会問題になっている。実のところ、その3つは大問題であり、メタボリックシンドロームと呼ばれ、英国の50歳以上の3人にひとりが罹患している。

 

 ヨーロッパでヤニを噛んでいた狩猟採集民の時代も含め、遠い昔から、腸内細菌は多様な植物や動物の微生物に定期的にさらされながら発達してきた。そういった微生物は、現代の加工食品には含まれていない。今の食べ物は大昔の食べ物とは大きく異なり、そのせいで、腸内細菌もまったく異なるものになっている。

 今、科学的な研究によって、人が口にする食べ物が健康に与える影響が明らかになりつつある。腸内細菌の数、その多様性、相互作用、宿主である人の体との関係が変化することで、どんな影響が出るのかがわかりつつあるのだ。

 さらに、これから食べるものをもとに、腸内細菌の変化を予測できるようになった。そればかりか、同じものを食べても、腸内細菌の違いによって、正反対の影響が出ることもある。なんとも不条理で、信じたくない現実だ。よりによって、そのせいで、同じものを食べても、痩せる人もいれば、太る人もいるとは。

 

注2 K. A. Dill-McFarland et al., ‘Close social relationships correlate with human gut microbiota composition’, Nature Scientific Reports, Vol. 9, Article 703, 2019, https://doi.org/10.1038/s41598-018-37298-9.

<第6回に続く>

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