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フィールダー

フィールダー

フィールダー

作家
古谷田奈月
出版社
集英社
発売日
2022-08-26
ISBN
9784087718072
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「フィールダー」のおすすめレビュー

児童福祉の専門家が性犯罪の加害者に!? “正しさ”が乱立する矛盾だらけの現代を揺さぶる、衝撃作!

『フィールダー』(古谷田奈月/集英社)

 本書『フィールダー』(古谷田奈月/集英社)は、読み手の足元がぐらつく小説である。

 総合出版社・立象社の社会派オピニオン誌の編集者である主人公・橘泰介は、担当である児童福祉の専門家、黒岩文子が女児に対し、性的加害しているという噂を社内の週刊誌記者から聞く。橘自身もまた協力プレイができるオンラインゲーム「リンドグランド」上でプレイヤー仲間との問題を抱えていく。

 我々は今、多様な“正しさ”が乱立するただ中に身を置く時代に生きている。あるひとつの“正しさ”にすがることで、必然的にもう一方の“正しさ”と対立してしまう。どちらの“正しさ”にすがることも可能だが、それは“矛盾”として自身の考えが“正しくない”ものとなってしまう。また、ある“正しさ”を絶対とした場合、それ以外の“正しさ”は間違いでなければならず、自身の“正しさ”に縛られ、思考は硬直していく。

 本書は、気付けば身動きが取れない“今”に気付かせてくれる作品だ。

 黒岩文子は、弱者のための活動というのは非当事者がどれだけ当事者意識を持てるかという挑戦だと語る。し…

2023/2/10

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フィールダー / 感想・レビュー

powerd by 読書メーター

なゆ

なんと言いますか…グラグラと意識を揺さぶられて、早くも私の中では年ベス級なのにレビューの書きようがないというのは、どうしたもんか。橘の思うように果たしてうまく事が進むのか、それが正しいのか、でも他にどうすれば良かったのか?!でも、ゲームの場面も興味深く面白く読めたし、バーチャルとリアルがうまく絡み合ってた。きっとまた、再読する。「言葉が全然足りないんだよ。複雑なことを複雑なまま伝えないから自殺や差別がなくならない。人間は、本当は、単純さに耐えられる生き物じゃないんだ」

2023/04/02

ずっきん

うわああ無茶苦茶面白かった!レビュー欄を『うわあ』で埋め尽くしたいくらい衝撃的に面白かった。噴出する現代のカオスをこれだけ盛り込んでおきながら、展開する物語のしなやかで熱いことったら。端正な文章にじたばたと悶え、辛辣な問いかけに刺されて膝をつく。先行きが知りたくて七転八倒しながら読み進める。ああ、これをワクワクと言わずしてなんという。人生の醍醐味は知ることだと思っている。『フィールダー』は読者にガッチリと追体験させてくれる、刺激と喜びに溢れた小説だ。国内ベスト更新。なぜ話題になってないのだ。みんな読んで!

2022/09/14

がらくたどん

「この世界のこういうところがきらいです」と言いつつあともう少しと臨場し続ける日々の中で人が縋る「かわいい」の捩じれと復権を探し求める驚くほど現実的な冒険小説。「かわいい」は「かははゆし(顔が火照るほど恥ずかしい)」から「かはゆし」に転じて可哀そうで見てられない・可憐だの意を加え「かわいい」に不憫だと愛しいの意は残ったが結局は「愛しさ」に収斂された経歴に日本の社会が己の非力に依る後ろめたさを善意の庇護意識でくるんでいった流れを想起してしまう面白い言葉。作中に散らばる「かわいい」の言葉を拾って見つめて旅をした

2022/10/24

konoha

スマホゲーム「リンドグランド」と現実の世界をリンクさせながら現代社会の問題に切り込んだ力作。編集者の橘は担当の黒岩が小児性愛と噂され、夫で猫を溺愛する宮田と対立する。橘もスマホゲームの仲間に異常な関心を抱いていた。ゲームの描写がリアル。私たちは根拠のない情報に晒され一瞬で白が黒になる世界を生きている。オンラインと現実のどちらでも当事者=フィールダーとして戦うんだ。橘の「Wi-Fiがないと生きられない。愛とWi-Fiですよ、先生、人生に必要なのは」という言葉が響く。複雑でスリリングで考えさせられる作品。

2022/09/30

愛玉子

「多様性」というシンプルな言葉に落とし込んだ瞬間に、それ自体が単純なものになったかのような錯覚を覚える。単純ではないからこその多様性、なのに。「かわいい」という暴力性、「正しさ」という不確実性。世界はこんなにも矛盾と混沌に満ちていて、なのに私たちは価値観を共有しているという幻想の下、そこから大きく逸脱したように見えるものを悪とし、排除することを善とする、細かな違和感には目をつぶったまま。誰もが当事者である、よく耳にするこの実感を伴わない言葉が目前に突きつけられる。疾走する物語は私をフィールドへ連れていく。

2022/12/12

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