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禍

作家
小田雅久仁
出版社
新潮社
発売日
2023-07-12
ISBN
9784103197232
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「禍」のおすすめレビュー

本を食べる女、耳の中に入り込む男、肉の海を掻き分ける男。人間の体の部位を切り取った奇妙奇怪な短編小説集

『禍』(小田雅久仁/新潮社)

“人間の〈からだ〉以上に不気味なものはない”

“〈からだ〉は生きて動くものでありながら、つねに〈死〉を孕んだものとして存在している”

 約10年間にわたり、人間の〈からだ〉にこだわり、執筆と改稿を繰り返した末に「これこそは自信をもって世に送り出せる」と著者自身が太鼓判を押す7つの怪奇小説を集めた短編小説集『禍』(小田雅久仁/新潮社)が刊行された。

 冒頭に引用したように、著者は人間の〈からだ〉を不気味なもので、〈死〉を孕んだものであると表現している。「口」をモチーフにした話は、書物のページを貪る女を見た男がその行為に取り憑かれる話、「耳」を主題にした、耳から相手の体の中に潜り込む技術を体得した男の話、「肉」を主軸に据えると、ふくよかな女の肉に魅せられた男が欲望に溺れ肉の海を掻き分けていく話と続いていく。確かに、〈からだ〉の部位が死の入り口になっているようで、不気味である。しかし一見すると突飛でいかにも空想的に思えてしまう。

 ただし、読む者に有無を言わせぬ説得力が文章に備わっているとなると話は変わってくる。巧みな比喩表現と論…

2023/7/12

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『禍』(小田雅久仁/新潮社)

〈からだ〉をモチーフにした怪奇小説集『禍』(小田雅久仁/新潮社)が発売された。発売に際して、台湾映画「呪詛」の監督から激賞の言葉をもらったり、新潮社が「体調の良い時にお読みください」と打ち出したり、モチーフにしているのも「口、耳、目、肉、鼻、髪、肌」で内容も不気味なものばかり。一度読んでしまえば最後、独特な不気味ワールドに引きずり込まれるような物語だ。

『禍』を刊行するにあたって最初の作品「耳もぐり」の執筆から、実に10年の歳月が過ぎた。この10年間での〈からだ〉に対する心境の変化や、執筆秘話などについて伺った。 (取材・文=奥井雄義)

©新潮社

「耳もぐり」から約10年。自分の手ごたえよりも、周りの反応

――『禍』刊行に際して、他の長編小説を刊行した時と異なる手ごたえなどありましたら教えてください。

小田雅久仁(以下、小田):もう10年以上前からちょこちょこ書きつづけてきた作品なので、あまり客観的に自分の作品を見られなくなってしまっている、ということもあります。ですので、自分でどうというよりは、読者がどう読んでくれるのかを…

2023/8/17

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禍 / 感想・レビュー

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夢追人009

小田雅久仁さんの7つの禍を描いた恐怖と戦慄の最新作品集。私は初読み作家さんでしたが、フランスのマルセル・エイメ氏や我が国の筒井康隆氏の作風の影響を感じましたね。冒頭の「食書」は本を食べるをテーマにして詳しくは書きませんが、とにかくあり得ないSF的にねじ曲がった展開が際限なく延々と続いて行きます。おとなしいのは最初だけで興が乗ってスイッチが入ると止まることなくどんどん突っ走って行きます。著者の文体には、あっさり淡白という表現は絶対にあり得ません。長ーく粘っこい文章の連続に深淵の彼方まで引き摺り込まれますよ。

2023/07/07

starbro

小田 雅久仁、2作目です。話題作は、不条理フェティシュ幻想譚の短篇集でした。オススメは、「食書」&「柔らかなところへ帰る」&「裸婦と裸夫」です。食書メーターが登場しました(笑) https://www.shinchosha.co.jp/special/wazawai/ 【読メエロ部】

2023/09/05

まこみや

ヴィトゲンシュタインの所謂「論理空間」という概念がある。いわば、論理的に矛盾しない限り、起こりうる可能性の総体である。現実の世界は論理空間のごく一部に過ぎず、現実を取り巻いて、現実化しなかった可能性が広大に開けている。『禍』の短篇は現実の世界から可能性の世界への越境だろう。主人公は、しがない裏ぶれた「表」の世界から目眩く「裏側(異界、夢、物語)」の世界へと、爆走する奔流のまま流されていく。論理空間を開くのは、ひとえに分節化された言語の力である。小田雅久仁の最も畏怖すべきは論理空間を開く言語力なのである。

2023/08/22

mint☆

7つの短編集。ホラー・・・?幽霊や殺人鬼が出てくるとかそういう系ではなく、なんだろう、不思議な世界へ無理矢理連れて行かれる感じ。かなりトリッキーなのになんとなく想像できるし、匂いや感触まで感じられそうだ。「農場」では鼻がムズムズするし「髪禍」ではずっとチクチクゾワゾワで、何かを吸い取られるんじゃないかと心配になった。本当に先がどうなるのか全くわからないので、気になって気になって一気読みでした。五感を刺激する気持ち悪さです(褒めてます)。#NetGalleyJP

2023/07/15

愛玉子

身体の一部と分かち難く結びついた禍々しい世界。そちら側に堕ちるのが怖い、のではなく、もうすでに足を踏み外し、その場所に底がないことに気づいてしまった時の恐怖、そしてそれが束の間或いは永続的に日常として続いていく奇妙な静けさ。一瞬ちょっと良いのではと思ってしまった『食書』、『農場』のおぞましくも安らかな日々、何だか首筋がチクチクしてくる『髪禍』が印象に残った。ただ、『残月記』の時は設定が現実離れしているからさほど気にならなかったが、こういう日常と地続きの物語だと、女性の扱いが昭和なのが少々気になる(そこか)

2023/10/14

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