“名酒場の達人・太田和彦”の猛烈に旅へ出たい気持ちにさせる1冊
『ニッポンぶらり旅 熊本の桜納豆は下品でうまい』(太田和彦/集英社) 最近、都内のとある老舗居酒屋を取材することになり、店舗にお邪魔した。店の方にいろいろ話を聞いていたとき、ある個人の名前が挙がり、以前に取り上げてもらったと嬉しそうに話してくれたことが印象に残っている。その個人とは、太田和彦氏その人だ。
氏は「太田和彦の日本百名居酒屋」という番組で、この老舗居酒屋を紹介していた。本業はグラフィックデザイナーだが、日本各地の居酒屋を訪ね歩くことでも有名である。そしてその一人旅の足跡を記した『ニッポンぶらり旅 熊本の桜納豆は下品でうまい』(太田和彦/集英社)は、毎日新聞出版発行『サンデー毎日」に連載された酒場紀行をまとめたもので、その文庫版第3弾。筆者が大阪から米子までを巡り、行く先々の名所や小径を心の赴くままに散策していく。
名所見聞は細かな情報も盛り込みつつ、地元の人たちとの触れ合いを時に軽妙に、時に真摯に語っていく。大阪では心斎橋の銭湯でのんびりラドン湯に浸かり、伊勢では伊勢神宮に参拝して清浄な気を全身に浴びる。仙台では東日本大震災のこと…